犬に日焼け止めは必要?日焼けのリスクが集まるのは鼻より腹、酸化亜鉛NG説を添付文書で確かめた

うちの茶々丸(キャバプー・9kg)は、全身が毛で覆われています。巻き毛が、頭から背中から尻尾まで隙間なく生えている。だから日焼けという言葉を、私はこの犬に結びつけて考えたことがありませんでした。日焼け止めを塗ったこともないし、塗るべきかどうかを調べたこともない。
調べてみたら、想定していた場所と違うところに話がありました。
犬の日焼けで問題になるのは、鼻先よりも腹側の毛のない皮膚です。 212頭の犬にできた血管腫と血管肉腫(前者が良性、後者が悪性の腫瘍です)を調べた研究では、短毛で色素の淡い犬の腫瘍のうち65%が、腹側の毛のない皮膚にありました。被毛の長さや色素が多様なグループでは、同じ部位の割合は22%でした(Hargis ら 1992、Veterinary Pathology)。
そしてもうひとつ。私が読んだ範囲の日本語記事は、どれも酸化亜鉛を避けるよう書いています。その根拠とされている亜鉛中毒を追っていくと、避けるべき理由は、書かれているのとは少し違う場所にありました。
この記事では、犬の日焼けがどこで起きてどう進むのかを整理したうえで、日焼け止めの成分をめぐる説がどこから来ているのかを、中毒情報と国内承認薬の添付文書で確かめます。
犬も日焼けするのか?
します。ただし、すべての犬が同じリスクを負っているわけではありません。
カンザス州立大学の獣医診断検査室(KSVDL)は、犬の日光性皮膚炎について、色素が淡く被毛の短い犬に起きやすいとしています。挙げられている犬種は、ビーグル、ボクサー、ブルテリア、ダルメシアン、ピットブル、ウィペットなど。日本の住宅街でよく見る顔ぶれとは、少しずれています。
病変ができる場所として KSVDL が挙げているのは、色素のない皮膚の四肢の内側、腹から脇にかけての腹部と胸部、側腹、そして鼻梁です。鼻は入っています。ただし、鼻だけではありません。体の下側が、まとめて含まれています。
茶々丸はこのリストのどこにも当てはまりません。被毛は短くないし、色は濃い茶色です。胸元と顎に白い毛がありますが、地肌が透けて見える場所は、少なくとも普段目にする範囲にはありません。
つまり、私が最初に持っていた「毛で覆われているから大丈夫だろう」という感覚は、方向としては間違っていなかったことになります。ただ、それが何を根拠にした安心なのかを、私は説明できていませんでした。
日焼けした皮膚は、そのあとどうなるのか?
赤くなって終わり、ではありません。慢性的な曝露が続いた場合には、その先があります。
KSVDL の説明では、UVA(320〜400ナノメートル)と UVB(290〜320ナノメートル)の曝露が、酸化的な損傷、免疫の抑制、腫瘍抑制のはたらきの阻害という三つを引き起こします。皮膚に最初に出るのは赤みと鱗のようなかさつきで、進むと皮膚が厚く皺状になり、毛が抜けていきます。
そして慢性的な曝露が続くと、角化細胞の増殖と変異が起き、前がん病変である光線角化症を経て、扁平上皮癌、血管腫、皮膚の血管肉腫といった日光誘発性の腫瘍につながることがある、とされています。
ここは書き方に気をつけたいところです。日に当たった犬が必ずこうなるという話ではありません。日光性皮膚炎から腫瘍までは連続した一本の道として説明されますが、その道を最後まで進むかどうかは別の問題です。KSVDL 自身、病変がどこにどう分布するかは個々の動物の行動と曝露時間の長さによる、と書いています。犬ごとに条件が違う、ということです。
覚えておきたいのは、日焼けが「その日のうちに赤くなるかどうか」だけの話ではないこと。そして、KSVDL が最善としているのが、日光への曝露そのものを減らすことだという点です。ほかにも治療の選択肢はあるとしていますが、その記事の範囲を超えるとして列挙されていません。
日が当たって困るのは、鼻ではなく腹なのか?
ここが、日本語の記事を読んでいて引っかかった場所です。
犬の日焼け対策として紹介されるのは、たいてい鼻と耳です。毛が薄いから、色素が淡いから、という説明がつきます。それ自体は間違っていません。KSVDL のリストにも鼻梁は入っています。
ただ、腫瘍が実際にどこにできていたかを数えた研究を見ると、集まっている場所が違います。
Hargis らが1992年に報告した研究では、皮膚と皮下組織に血管腫・血管肉腫ができた犬212頭、腫瘍にして306個が後ろ向きに解析されています。切除時の平均年齢は10歳を超えていて、性別による偏りはありませんでした。腫瘍の内訳は血管腫が73%、血管肉腫が27%です。
被毛と色素で犬を二つのグループに分けたときの数字が、こうなります。
| 短毛・色素が淡い犬 | 被毛の長さと色素が多様な犬 | |
|---|---|---|
| 腹側の毛のない皮膚にできた腫瘍 | 65% | 22% |
| 真皮にできた腫瘍 | 65% | 28% |
| 皮下組織にできた腫瘍 | 10% | 22% |
1行目は体のどこにできたかの話、2行目と3行目は皮膚のどの深さにできたかの話です。分類の軸が違うので、65%が2回出てきますが別の数字です。
さらに、真皮にできた血管肉腫は、毛のない皮膚に63%、毛のある皮膚に10%と、はっきり偏っていました。一方で皮下組織の血管肉腫は毛のあるなしで33%と33%、つまり差がありません。皮膚の表面に近いところにできる腫瘍だけが、毛のない場所に集まっている。
著者らはこの結果について、腹側の毛のない皮膚で真皮の血管腫・血管肉腫が増えることは、太陽放射とこの部位の生物学的性質との関連を示唆する、と書いています。
「示唆する」という言葉のままで受け取るべきだと思います。要旨を読む限り、この研究は日光を浴びた量そのものを測ってはいません。病理標本を後ろ向きに集計した研究なので、一般の家庭犬の発生率でもない。1992年のアメリカで、いまの日本とは犬種の構成も飼い方も違います。
そのうえで、腹という部位の指摘は残ります。なぜ腹なのかについては、Merck Veterinary Manual が日光誘発性の扁平上皮癌を説明する箇所で、三つ挙げています。毛の薄い皮膚は紫外線を遮る力が弱いこと、多くの動物が仰向けになって日光浴をすること、そしておそらくは地面から日光が反射すること。三つ目には、原文にも「おそらく」という留保がついています。血管腫・血管肉腫とは別の腫瘍についての説明ですが、日が当たる仕組みそのものは共通します。
犬の熱中症の記事を書いたときにも、犬の体で地面にいちばん近いのは肉球と腹部だ、という話が出てきました。熱の話と日光の話で、同じ部位に行き着いたことになります。
茶々丸は仰向けで寝ます。ただ、日向にいるときはうつ伏せでいることが多い気がする、というのが私の印象です。断言はできません。一日中見ているわけではないので、私が見ていない時間に仰向けで日を浴びている可能性は残ります。この程度の観察が、飼い主の手元にある情報の実際だと思います。
うちの犬は当てはまるのか?
研究と自分の犬を突き合わせるための材料を並べます。
- 被毛: 短いか。地肌が透けて見えるか
- 色素: 白や淡い色か。腹側の皮膚がピンク色をしているか
- 姿勢: 日向で仰向けになる習慣があるか
- 時間: 屋外にいる時間が長いか。日中の散歩が中心か
- 地面: コンクリートや砂浜など、照り返しの強い場所を歩くか
この五つで見ると、茶々丸は当てはまりません。被毛は密な巻き毛で、色は濃い。散歩は日が沈む頃に出ています。腹を上に向けて寝るのは、たいてい室内の床の上です。
自分の犬が該当しないという結論は、記事としては地味です。ただ、該当しない犬に対策を積み上げても意味はないし、該当する犬にとっては優先順位が変わります。ダルメシアンやウィペットのように、腹側の地肌が見える犬と暮らしている人にとって、この話は他人事ではないはずです。
一点だけ、毛の量とは関係なく残るものがあります。トリミングです。茶々丸もサマーカットにしたことがあります。短くすれば地肌に届く光は増えるはずですが、犬のサマーカットと日焼けの関係を直接調べたデータを、私は見つけられませんでした。だからここでは「増えるはずだ」以上のことは書けません。
「酸化亜鉛は犬に危険」は本当か?
犬の日焼け止めを調べていて何度も出てきたのが、この話です。人間用の日焼け止めを犬に塗ってはいけない、理由は酸化亜鉛が入っているからだ、舐めると亜鉛中毒を起こして赤血球が壊れる、という説明です。
根拠を追いました。
Merck Veterinary Manual の亜鉛中毒の項目には、こう書かれています。酸化亜鉛の軟膏やクリーム、亜鉛トローチ、亜鉛サプリメントを急性的に摂取した場合、毒性のリスクは低く、用量に応じた消化器症状を超えることはまれである、と。
同じ項目が亜鉛中毒の原因として挙げているのも、別のものです。1982年以降のアメリカの1セント硬貨(亜鉛97.5%)、1ドル硬貨、自動車部品、亜鉛メッキの金具、装身具、玩具、装飾品。つまり金属としての亜鉛です。亜鉛中毒の第二相では血管内溶血、貧血、黄疸、ヘモグロビン尿、急性の腎不全や肝不全が起こると書かれていますが、Merck が典型として挙げているのは、亜鉛を含む金属を飲み込んだ場合と、食餌に亜鉛が過剰に含まれる場合でした。
Pet Poison Helpline も、酸化亜鉛の摂取で亜鉛中毒が起こることは一般的ではなく、嘔吐や下痢といった軽度の消化器症状が出て自然に治まるのが通常だ、としています。
ここで読むのをやめていたら、酸化亜鉛を恐れる根拠は弱い、と結論づけるところでした。
続きがあった
Merck には、人が使う外用剤による中毒を扱った別の項目があります。そこに、こう書かれていました。
酸化亜鉛の急性の摂取では、通常、血管内溶血や急性腎障害は起こらないと考えられる。しかし血管内溶血は慢性的な摂取で起こりうる。たとえば酸化亜鉛クリームをペットに外用し、数日から数週間にわたって動物の皮膚から舐め取った場合である。
急性と慢性で、話が分かれていました。そしてこの項目の関連文献に、酸化亜鉛の症例報告が1件挙がっています。
Siow が2018年に Open Veterinary Journal に報告した症例では、5.6kgの6歳の犬が酸化亜鉛クリームを大量に舐め取り、重度のハインツ小体溶血性貧血を起こしています。避妊済みメスのプードルミックスでした。9日間続いた下痢で後ろ半身の皮膚がただれ、そこにクリームを塗っていたそうです。飼い主があとから振り返って、犬がそれを大量に舐めていたことに気づきます。
この犬は色素尿、脱力、食欲不振で救急に運ばれました。血清亜鉛濃度は著明に上昇していました。支持療法で完全に回復しています。
摂取の規模は書いておきます。飼い主はこのクリームを1日5回、7日間にわたって塗り続けていて、250gの容器のおよそ半分、125gを使っていました。日焼け止めを塗り直す量とは桁が違います。
ただし Merck のほうの記述は、量の条件をつけていません。数日から数週間の慢性摂取で溶血が起こりうる、という書き方です。著者は、亜鉛中毒は速やかに診断・治療されれば予後は良好だと書いていますが、同時に、詳細な病歴聴取の重要性を示す症例だとしています。塗り薬が原因だと分かるまで、時間がかかったということです。
つまり ASPCA が書いていた「酸化亜鉛が皮膚に反復して曝露すると、ペットは亜鉛中毒を起こしうる、それは赤血球を傷害する」は、大げさな注意喚起ではありませんでした。ASPCA は同じ記事で、獣医師が認めた日焼け止めを選ぶなら酸化亜鉛を含まないものにし、サリチル酸系の濃度が低いものを選べ、とも書いています。
Merck と Pet Poison Helpline と ASPCA は割れていたのではなく、急性の一回と、慢性の舐め取りという、違う場面の話をしていました。一回舐めた程度なら消化器症状で済む。塗り続けて舐め取らせれば、赤血球が壊れることがある。両方とも正しい。
国内承認薬の中身を見た
日本側にも材料があります。農林水産省の動物用医薬品等データベースで酸化亜鉛を主成分に含む製品を探すと、犬猫用の外用剤が出てきます。ネオスキン-S(現代製薬)です。1990年に承認され、直近では2024年8月にも承認を受けています。
成分は100g中でこうなっています。
| 主成分 | 分量 |
|---|---|
| サリチル酸 | 2.0g |
| ジフェンヒドラミン塩酸塩 | 0.5g |
| 酸化亜鉛 | 10.0g |
効能効果は湿疹、アレルギー性皮膚炎、掻痒性皮膚炎、脱毛疹、皮膚糸状菌症、じんま疹。用法は、適宜、患部に適量を塗布する。
犬に塗ってはいけないと言われている酸化亜鉛が、10%入っています。それを含む外用剤が、動物用医薬品として犬猫に承認されていて、患部に塗る使い方が定められている。
では舐めることについて、この文書は何と言っているか。
動物は患部を舐める習性があるので、本剤をよくすり込み、余分な薬剤はぬぐいとること。
摂取そのものを目的にした使い方は禁じられていて、同じ文書に「本剤は外用以外に使用しないこと」とあります。ただ、舐める行為そのものは禁忌になっていません。舐める習性を前提にしたうえで、よくすり込んで余りを拭き取れ、という運用の指示になっている。
この一文を、私は最初、ゆるい注意書きとして読みました。Siow の症例を読んだあとでは、違って見えます。数日から数週間かけて舐め取ることが問題になるなら、余分な薬剤を残さないという指示は、まさにそこを塞ぐためのものです。禁忌にしなくても、拭き取れば足りる。逆に言えば、拭き取らなければ足りない。
サリチル酸のほうは、もう少し込み入っています。ASPCA は成分名を挙げず、サリチル酸系と総称して、アスピリンと同じ系統の化合物だと説明したうえで、皮膚に塗った場合は軽い赤みや刺激が出るかもしれない、としています。Pet Poison Helpline はより具体的に、オクチルサリチル酸、ホモサレート、トロラミンサリチル酸を挙げ、酸化亜鉛とサリチル酸系の二つのうち、深刻な健康被害につながりうるのは後者のほうだとしています。嘔吐、発熱、呼吸困難、消化管潰瘍、食欲不振。
そして Merck は、サリチル酸系の例としてサリチル酸そのものを挙げ、日焼け止めを含む製品に使われていると書いています。つまりネオスキン-Sに入っているサリチル酸は、分類としては警告されている成分群の一員です。2%を患部に塗る使い方が全身の影響を出す量なのかどうかは、私が読んだ資料からは判断できませんでした。
添付文書が名指しで警告しているのも、このサリチル酸でした。ラットの経口・腹腔内投与で催奇形性が報告されているため、妊娠している動物や可能性のある動物への使用は、治療上の有益性が危険性を上回ると判断する場合に限るなど慎重に判断すること、と書かれています。動物実験で変異原性を示した報告があることにも触れています。ジフェンヒドラミンについての注意は、人で光過敏症と皮膚炎が報告されているので、皮膚に付着したときは石けん等でよく洗い、過敏症状が出たら使用を中止すること。犬ではなく、塗る人への注意です。
それでも人間用の日焼け止めを勧めない
この記事は、人間用の日焼け止めを犬に塗ることを勧めません。ただし理由は、調べる前に想定していたものとは違いました。
避けるべき理由は「一度でも舐めたら中毒になるから」ではありません。急性の摂取なら、Merck も Pet Poison Helpline も低リスクだとしています。問題は、日焼け止めが一度塗って終わりのものではないことのほうです。夏のあいだ、外に出るたびに塗り直す。Merck が慢性摂取の例として挙げたのは、まさに数日から数週間にわたって皮膚から舐め取られる状況でした。
ネオスキン-Sは日焼け止めではありません。効能効果が違うし、基剤も併用成分も違います。承認薬に酸化亜鉛が入っていることは、市販の日焼け止めを犬に塗ってよい理由にはなりません。人間用の日焼け止めには酸化亜鉛以外の成分も入っていて、そのすべてが犬で評価されているわけでもない。
情報源の立場も揃っています。Pet Poison Helpline は、人間用の製品をペットに使うのは誤飲の危険があるため推奨されない、と明記しています。ASPCA は人間用について同じ書き方はしていませんが、選ぶなら獣医師が認めた製品を、そして獣医師にどの製品が適切か相談するように、という前提で書いています。
そのうえで、これは私の立場の表明です。効果の裏づけがはっきりしないものを、舐め取られる前提で毎日塗る理由が、うちの犬には見つかりませんでした。塗らずに済ませられる方法が、この先にあります。
塗っていなくても、口には入っている
もっとも、私自身が完全に無関係かというと、そうでもありませんでした。
夏は自分の腕や脚に日焼け止めを塗ります。そして茶々丸は、私の手を舐めにきます。日焼け止めを狙って舐めているわけではないと思いますが、手を舐められれば、多少は口に入っているはずです。よく舐められる手は洗うようにしていますが、完全に防げているとは言えません。
風呂上がりに足を舐めてくる話を書いたとき、私は順番を決めました。舐めさせるなら塗る前、塗ったあとは乾くまで近づけない、と。化粧水やボディクリームについては、そう決めました。日焼け止めのほうは、正直に言えば同じようには徹底できていません。
Merck Veterinary Manual は、人用の外用剤による中毒の曝露経路として、チューブを噛むこと、パッチを飲み込むこと、人の皮膚から移った汚れを毛づくろいで取り込むこと、そして人の皮膚に塗られた薬剤を舐め取ることを挙げています。日焼け止めは、まさにその経路に乗る製品でした。犬に塗るかどうかより先に、自分が塗ったものを舐められていないかを考えたほうがいい、というのが正直な感想です。
日本に、犬用の日焼け止めはあるのか?
犬用と書かれたスプレーやクリームは、商品としては流通しています。
ただ、動物用医薬品としては承認されていません。農林水産省の動物用医薬品等データベースで、効能効果に「日焼け」を含む製品を検索すると0件です(2026年8月30日時点)。検索が壊れているわけではありません。同じ検索方法で「皮膚炎」を引くと多数の製品が出てきますし、既存の承認薬の成分名でも正しくヒットします。
米国でも事情は似ています。ASPCA は、ペット向けに販売されている日焼け止め製品はあるが、通常 FDA の試験を受けていない、と書いています。
これは犬用日焼け止めが粗悪品だという話ではありません。医薬品としての承認を前提にした製品ではない、という位置づけの話です。効果の裏づけを求めるときの期待値を、そこに合わせておく必要があります。
結局、何をすればいいのか?
対策には順番があります。KSVDL が最善の治療法としているのは、日光への曝露を最小限にすること。ASPCA も、日焼け止めを塗ることより、日差しの強い時間帯の屋外を避けることを先に挙げています。どちらも、塗ることを一番目に置いていません。
Merck も、紫外線への曝露を制限することが日光誘発性の扁平上皮癌の予防につながるとしたうえで、その手段として UV カットの窓用スクリーン、日焼け止め、日差しの強い時間帯に屋内に入れておくことを挙げています。三つのうちに日焼け止めが入っている点は、KSVDL や ASPCA とは少し違います。ただし同じ箇所で、タトゥーやマジックペン、日焼け止めは効果にばらつきがあるとも書いています。塗る手段を否定はしていないけれど、確実なものとしても扱っていない、という温度感です。
- 時間帯を動かす。日差しの強い時間の外出を減らす。これが最も効果が確実で、費用もかからない
- 日陰と地面を選ぶ。照り返しの強い場所を長く歩かない。砂浜やコンクリートは、日差しと路面の熱の両方が来る
- 物理的に覆う。服を着せられる犬なら、腹側を覆う選択肢がある
- 日焼け止めを検討する。ここまでやってなお曝露が避けられず、かつ地肌が出ている犬の場合
順番が逆になっている記事を、私はいくつも読みました。塗るものの成分表を見比べる前に、散歩の時刻をずらすほうが効きます。Merck が屋内退避の目安として挙げているのは、日差しの強い10時から14時のあいだです。
時期についても、ひとつ数字を置いておきます。気象庁の観測によると、つくばの日最大UVインデックスの月平均値は、2005年から2025年までの各年で、9月が4.7から6.3の範囲に収まっています。7月は5.1から8.5、8月は6.1から8.8なので、真夏に比べれば下がります。ただ5月は5.0から6.6、6月は5.0から7.0なので、9月は春とほぼ同じ水準ということになります。夏が終わったから終わり、という下がり方はしません。
私の場合、散歩に出るのは日が沈む頃です。SiPPO Friends の路面温度の表示を見て決めています。日焼けを考えて選んだ時間帯ではなく、暑さを避けた結果でした。ついでに日光の曝露も減っていた、というだけの話です。
今年の夏、沖縄の海に茶々丸を連れて行くつもりでいました。海水の記事を書いたのは、そのための下調べでもありました。台風で断念して、代わりに九十九里浜に行きました。
連れて行ったのは日が沈む頃です。海には入らず、リードも外さず、波打ち際で足が少し濡れるくらい。砂浜の照り返しを浴びる時間は、ほとんどありませんでした。
日中の砂浜に犬を連れて行くとしたら、この記事で調べたことが効いてくるはずです。私はまだ、その状況を経験していません。
まとめ
- 犬は日焼けする。ただしリスクは、毛が薄く色素の淡い皮膚に偏る
- 日光と関連づけられる腫瘍が集まるのは鼻だけではない。Hargis らの212頭の研究では、短毛・淡色素の犬の腫瘍の65%が腹側の毛のない皮膚にあった
- 腹に日が当たる理由を Merck は三つ挙げる。毛の薄い皮膚が紫外線を遮りにくいこと、多くの動物が仰向けで日光浴をすること、おそらくは地面からの反射
- 酸化亜鉛は急性と慢性で話が分かれる。一回の摂取なら低リスクだが、Merck は、塗ったものを数日から数週間かけて皮膚から舐め取った場合に血管内溶血が起こりうるとしている。同じ項目の関連文献に症例報告が1件挙がっている
- その症例(Siow 2018)は、下痢のただれに酸化亜鉛クリームを塗った5.6kgの犬が大量に舐め取り、重度のハインツ小体溶血性貧血を起こしたもの。支持療法で完全に回復している
- 日本では、酸化亜鉛10%を含む犬猫用の外用剤が動物用医薬品として承認されている。添付文書は舐める行為そのものを禁忌とせず、よくすり込んで余分を拭き取るよう求めている
- 同じ製剤にはサリチル酸も2%入っている。Merck はサリチル酸を、日焼け止めに使われるサリチル酸系の一員として挙げている。2%の外用が全身の影響を出す量かどうかは資料から判断できなかった
- それでも人間用の日焼け止めを犬に塗ることは勧めない。避けるべき理由は一度舐めたら危ないからではなく、繰り返し塗って舐め取らせる経路が実在するから
- Pet Poison Helpline は人間用の製品をペットに使うことを推奨しないと明記している。ASPCA は獣医師が認めた製品を選び、獣医師に相談することを前提に書いている
- 日焼け止めを効能効果とする動物用医薬品は、日本では承認されていない
- 対策の順番は、時間帯、日陰と地面、覆うもの、そして日焼け止め
散歩の時間帯を変えたかどうかは、記録に残していないと自分でも分からなくなります。SiPPO Friends は散歩の記録に時刻が残るので、夏のあいだ何時に出ていたかを後から見返せます。出る前の判断には、天気とお散歩指数が使えます。
腹側の皮膚に赤みやかさつきが出ているかどうかは、月に一度めくって見るくらいでちょうどいいと思います。光線角化症のような変化はゆっくり進むので、いつ見たかを覚えておくと比べやすくなります。
この記事は一般的な情報の提供を目的としており、獣医療のアドバイスではありません。皮膚に色の変化やしこり、治らないかさつきがある場合は、自己判断せず動物病院で診てもらってください。犬に何かを塗る前には、かかりつけの獣医師に相談してください。
よくある質問
- 犬に日焼け止めは必要ですか?
- 犬によります。日光と関連づけられる皮膚腫瘍は、毛が薄く色素の淡い皮膚に偏ります。Hargis らが212頭を調べた研究では、短毛で色素の淡い犬の血管腫・血管肉腫の65%が腹側の毛のない皮膚にできていました。ただし対策の第一は日焼け止めではありません。カンザス州立大学の獣医診断検査室は、最善の治療法は日光への曝露そのものを最小限にすることだとしています。
- 犬が日焼けすると、どこに症状が出ますか?
- カンザス州立大学の獣医診断検査室は、色素のない皮膚の四肢内側、腹から脇にかけての腹部と胸部、側腹、鼻梁を挙げています。鼻だけの話ではなく、体の下側が広く含まれます。初期は赤みと皮膚のかさつきで、慢性化すると皮膚が厚く皺状になり毛が抜けます。
- 酸化亜鉛が入った日焼け止めは犬に危険ですか?
- 急性と慢性を分けて考える必要があります。Merck Veterinary Manual は、酸化亜鉛の軟膏やクリームを急性的に摂取した場合の毒性リスクは低いとする一方、別の項目では、酸化亜鉛クリームを外用して数日から数週間にわたり動物の皮膚から舐め取った場合に血管内溶血が起こりうるとしています。実際に、下痢によるただれに酸化亜鉛クリームを塗った5.6kgの犬が大量に舐め取り、重度のハインツ小体溶血性貧血を起こした症例が報告されています(Siow 2018)。ASPCA も、獣医師が認めた日焼け止めを選ぶなら酸化亜鉛を含まないものにするよう勧めています。
- 日本に犬用の日焼け止めは承認されていますか?
- 動物用医薬品としては承認されていません。農林水産省の動物用医薬品等データベースで効能効果に日焼けを含む製品を検索すると0件です(2026年8月30日時点。皮膚炎などの語では多数ヒットするため、検索そのものは機能しています)。商品として売られている犬用日焼け止めは、動物用医薬品の承認を受けた製品ではありません。
- 夏が終われば紫外線対策はいらなくなりますか?
- 9月はまだ下がりきりません。気象庁がつくばで観測した日最大UVインデックスの月平均値は、2005年から2025年までの各年で、9月が4.7から6.3の範囲に入っています。5月は5.0から6.6、6月は5.0から7.0なので、ほぼ同じ水準です。7月8月に比べれば下がりますが、春と同程度の紫外線は残っています。
出典・参考文献
- A retrospective clinicopathologic study of 212 dogs with cutaneous hemangiomas and hemangiosarcomas — Veterinary Pathology(Hargis AM ら, 1992)
- Canine Solar Dermatitis — Kansas State Veterinary Diagnostic Laboratory
- Zinc Toxicosis in Animals — Merck Veterinary Manual
- Epidermal and Hair Follicle Tumors in Animals — Merck Veterinary Manual
- Toxicosis in Animals from Human Topical Agents — Merck Veterinary Manual
- Zinc toxicosis in a dog secondary to prolonged zinc oxide ingestion — Open Veterinary Journal(Siow JW, 2018)
- Pets and Sunscreen: Don't Get Burned by the Myths! — ASPCA(米国動物虐待防止協会)
- Sunscreen Toxins — Pet Poison Helpline
- 動物用医薬品等データベース(ネオスキン-S) — 農林水産省 動物医薬品検査所
- 日最大UVインデックス(観測値)の月平均値の数値データ表 — 気象庁
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