犬の散歩でゴミ拾い|プロギングの運動効果と、続けられる人の3つの共通点

去年の春、茶々丸(キャバプーの女の子、もうすぐ二歳)が、電柱の根元で、焼き鳥の串を一本、ぱくっと咥えてしまったことがありました。誇らしげな顔で振り返って、私を見上げる。私のほうは、たぶん、青ざめていたと思います。詳しい顛末は 犬の拾い食いをやめさせる方法 のほうに書きましたが、その晩、私は急に思い立ったんです。
うんちを袋に入れて持ち帰る、あの当たり前の動作の、ついでで、いいんじゃないか。袋はもう手にあって、屈む癖もついている。だったら、串の一本くらい、自分の手でつまんでしまえばいい。茶々丸の鼻先より、私の指のほうが先に届けば、それで事故は起こらない。
そうやって毎朝、散歩のついでに街のゴミを拾うようになって、ひと月。これはどうやら世界でいう「プロギング」というやつらしい、と知ったのは、つい最近のことです。 スウェーデン語の plocka upp(拾う)と、英語の jogging を、繋げてしまった造語だそうで、国連環境計画も Keep America Beautiful も、まじめにその効能を発信している。私の小さなついで仕事に、北欧由来の名札がぶら下がっていたのを知って、私はちょっと、こそばゆい気持ちになりました。
この記事は、その一ヶ月で私が調べたこと、続けてみてわかったことを、できるだけ正直に書きました。プロギングの運動効果、日本の散乱ごみの実態、続けられる人の三つの共通点。よければ、明日の散歩の、ささやかな付け足しに、お持ち帰りください。
免責: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療・法令・自治体ごとの具体的な規制・指導の代替ではありません。注射器や薬物が疑われる物、大型の廃棄物、動物の死骸などには素手で触れず、警察や自治体の窓口にご相談ください。愛犬の健康や行動面に不安がある場合は、かかりつけの獣医師やドッグトレーナーにご相談ください。
プロギングとは何で、どこから来たのか?
スウェーデン人の Erik Ahlström さんという方が、二〇一六年、ストックホルムで一人で始めたのが、はじまりだそうです。北欧の山間部で二十年暮らしたあと、首都に戻ってみたら、街にゴミが散らばっていることに、ぎょっとした。それで、ジョギングのついでに拾うようになった——そんな素朴な始まりだったと、plogging.org に書かれています。
二〇一八年ごろから SNS で世界に広がり、いまでは各国に定着しています(UNEP)。日本では「プロギングジャパン」が国内の拠点として、各地でイベントを開いている。私はまだ参加したことはないんですが、横目で見ていると、犬連れで来ている人もちらほら混じっていて、なんだか敷居が低くなった気がします。
Keep America Beautiful の解説によれば、プロギングはランニング専用ではなくて、早歩きでも自転車でもいい、要するに「移動しながら拾う」のが本意なんだそうです。犬の散歩というのは、まさにこの、ぼんやり歩いてぼんやり拾う、いちばん柔らかいかたちのプロギングだと、私は勝手に思っています。
日本の散歩ルートに、何が落ちているか
先に、何が落ちているのかを把握しておくと、散歩中、視線がぐらつかずに済みます。
食品容器環境美化協会という長い名前の団体が、首都圏と近畿圏の九十地点で「散乱実態調査」(二〇〇〇〜二〇〇三年度)をやってくれていまして、結果はこうでした。
| 分類 | 構成比 |
|---|---|
| たばこの吸い殻 | 40〜60% |
| 容器包装(飲料容器以外) | 20〜30% |
| 紙くず・その他 | 17〜20% |
| 飲料容器(缶・ペットボトル等) | 2〜8% |
二十年以上前の調査ですから、令和の路上がそのままこの構成比だ、と言い切るのは乱暴です。けれど、半分前後が吸い殻、次が袋やフィルム類、そして紙くず、という順序を頭に入れておくだけで、散歩中の目の置きどころが、ずいぶん決まります。
プロギングの運動効果は犬の散歩に釣り合う?
「ゴミ拾いは社会貢献、運動は運動」と分けて考えていると、忙しい朝に、社会貢献のほうから先に取り落としてしまう。両者を一つの動作に重ねてしまうほうが、私のような不精な飼い主には、向いていました。
Keep America Beautiful が紹介している Lifesum アプリのデータによれば、プロギング一時間の消費カロリーは約二八八キロカロリー。ジョギング単体(約二三五キロカロリー)より、二割以上、多い計算になります。屈んで拾う動作が軽いスクワットの代わりになり、立ち上がる動作で脚と体幹を使う——理屈としては、すんなり腑に落ちます。
犬の散歩と相性がいい3つの理由
- 嗅ぎ止まりと屈みのタイミングが合う: 茶々丸が電柱で立ち止まる三十秒から一分が、ちょうど一つ二つ拾える時間。散歩の流れを乱さずに屈伸を挟める
- 歩く・屈む・歩くのインターバルになる: 連続歩行よりも心拍にメリハリが出て、脚と体幹に軽いレジスタンスが入る
- ペースが犬の都合: ランナーのプロギングのように颯爽とはいかないが、回数を重ねれば消費カロリーの総量はそれなりに出る
試しにスマートウォッチで計測してみたら、茶々丸との朝三十分、プロギングを混ぜた日は、ただ歩くだけの日より二十〜三十キロカロリー余分に燃えていました。数字は小さいですが、ぼんやり歩いていただけの朝が「軽い筋トレ+清掃」に塗り替わる感覚は、地味に効きます。
ゴミ拾いは愛犬の拾い食いを物理的に減らす
運動効果より、私が深く実感しているのは、こちらのほうです。
散歩中に茶々丸が鼻先を寄せてヒヤッとするもの——タバコの吸い殻、焼き鳥の串、チョコや人間の食べ物、落ちた薬、尖った金属片——は、どれも「路上に落ちているゴミ」と重なります。茶々丸が鼻を下ろす前に、私が先につまんでしまえば、事故そのものが起こらない。拾い食いの予防としては、犬のトレーニング(Leave it 等)よりも一歩手前の、環境側の対処です。
行動トレーニングは大事で、別の記事に 犬の拾い食いをやめさせる方法 として書きました。ただ、トレーニングは時間がかかるし、完全には消せません。だったら、落ちている物自体をこちらの手で減らしてしまうほうが、てっとり早い場合もある——というのが、一ヶ月続けてみての、率直な感想です。
続けられる人と続かない人を分けるものは何?
ここが本題です。プロギングは「やってみよう」と決めた当日は、誰でもできます。問題は三週間後、三ヶ月後にもまだ続いているか。
Lally ら(二〇一〇)が欧州社会心理学誌に発表した習慣化の研究によると、九十六人の参加者が毎日同じ文脈(たとえば「朝食後」)で何かひとつの行動を十二週間続けたとき、自動化(意識せずできるレベル)に到達するまでの日数は、中央値で六十六日。範囲は十八日から二百五十四日と、個人差はかなり大きかったそうです。さらに、運動行動は食べる・飲む行動よりも自動化までに長くかかる傾向があるとも報告されています。
つまり習慣化は、最短十八日、長ければ半年以上。覚悟の問題というより、設計の問題ということになります。続けている人を観察すると、共通点が三つ、見えてきました。気合や性格ではなく、行動の設計側にある、地味なパターンです。
共通点1: 道具が常に「手元」にある
家を出る時に「今日はやろう」と思ってから装備を探しはじめる人は、続きません。私は最初の週、これで一度、見事に挫折しました。
続けている人の家を覗かせてもらうと、リードと一緒に、マナー袋とトングが、玄関の同じフックに当たり前の顔で並んでぶら下がっています。Lally の論文の言う「同じ文脈で繰り返す」を、まずは物理的な動線で実装してしまっている、ということなのでしょう。
私の家でも、リードを掛けるフックのすぐ横に、マナー袋ケースと折りたたみトングを移しました。リードを取る動作と、トングを取る動作が、同じ高さで完結する。朝に「やろうかな、やめようかな」と迷う、あの一秒のためらいが、物理的に消えました。
共通点2: 散歩のルーティンに「組み込み済み」である
「プロギングのために時間を取る」発想だと、続きません。続けている人は、毎日やっている散歩に、「電柱下を見る」「排水溝の手前で一瞬しゃがむ」という、ほんの小さな動作を重ねているだけです。Habit Stacking(習慣の重ね掛け)と、行動設計の世界では呼ぶそうですが、要するに、新しい習慣を、すでにある習慣の背中におんぶさせてしまう、という工夫です。
茶々丸が電柱で念入りに嗅いでいる三十秒のあいだに、私は電柱の根元を見る——このシーケンスが固まってからは、「今日やるか、どうしようか」を毎朝考えなくて済むようになりました。考えないで済む、というのが、続いている、ということの定義に近いように思います。
共通点3: 目標が「量より接触頻度」で設計されている
「毎日レジ袋一杯ぶん拾う」と勇ましいノルマを決めた人は、拾うのがしんどい朝に、散歩そのものが億劫になります。私も最初の週、「今日は五個ノルマ」と意気込んで、三日目にぽっきり折れました。
続けている人は、そこの順序が逆なんです。「毎回必ず一つは拾う、余裕があれば三つ」のように、下限を極端に低くしてある。
Lally の論文には、もうひとつ大事な発見が書いてありました。一日くらいの抜けは、習慣の形成に大きく影響しない。抜けてはいけないのは「接触の頻度」のほうで、量ではない。一日に一個だけ拾った日があってもいい。ゼロの日が何日も続かなければ、それでいい。
下限を「一」に下げてからの私の散歩は、ようやく続きはじめました。
何を拾って、何を拾わない?
衛生と安全の線引きは、はっきりさせておかないと、判断に迷う朝が来ます。
拾わないもの:
- 注射器、鋭利な医療廃棄物(感染症のおそれ。素手では絶対に触らない)
- 大量の液体が残っている飲料容器(こぼれてかえって地面を汚しがち。倒れているペットボトルは飲み口を上にして立て直すだけにする)
- 動物の死骸(自治体の窓口へ通報)
- 産業廃棄物らしき大きな物(警察か自治体へ通報)
- 茶々丸が興味を示して取り合いになりそうな物(まずは犬を遠ざけてから拾う)
拾いやすいもの:
- タバコの吸い殻(数が多く、犬の拾い食いリスクも高い、最優先のターゲット)
- 紙くず・袋類(軽くて、吸い殻の次に量が多い)
- ペットボトルキャップ・缶のプルタブ(小型で誤飲リスクあり)
- マスク(二〇二〇年以降、都市部で目立つ増加品目)
茶々丸ルールとして、「拾う時は犬を一歩下がらせる」「素手では絶対に触らない」の二点を、私は固く決めています。犬が興奮して横から鼻を突っ込むと、こちらも犬も、いちどに事故になる。トングで挟む時は、茶々丸に「待て」をかけてから動きます。
犬と一緒にやるゴミ拾いの装備は何を揃える?
過剰な装備は、続かない、いちばんの敵です。私も最初、専用の作業手袋やら、清掃用の特大トングやら、一通り買い揃えてしまったんですが、三日もしないうちに、すべて靴箱の奥でひっそり埃をかぶっていました。茶々丸はそんな私の決意のあとさきに関心はないようで、特大トングの先端を一度ぺろりと舐めて、すぐに私の靴下のにおいに戻っていきました。
最小構成を、おそるおそる並べてみます。
| 品目 | 役割 | 私が使っているもの |
|---|---|---|
| マナー袋(うんち袋) | 拾ったゴミを入れる袋として兼用 | 生分解性のマナー袋を、少し多めに携帯 |
| 折りたたみトング | 素手で触らないための必需品 | 十八センチ前後のアウトドア用、軽量タイプ |
| 使い捨て手袋 | トングで掴めない細かい物・濡れた物の予備手段 | 薄手ポリエチレンを数枚、袋に常備 |
| 消毒スプレー | 帰宅時、手を洗う直前に | 小型の携帯ボトル |
マナー袋は、うんち専用と決めずに「拾ったゴミもこの袋に入れる」運用に変えました。「ついで感」が最大化します。気になる方は、うんちと分別したいなら袋を二枚に増やすだけで足ります。
トングはキャンプ用の軽量タイプで十分でした。ホームセンターで五百〜千五百円ほど。立派な清掃用トングは、たぶん不精者には持て余します。
手袋とマナー袋の二重運用
濡れたマスクや吸い殻を触る時は、マナー袋を手にかぶせて「手袋がわり」にして掴み、そのままひっくり返して袋に収める——この動作を覚えると、使い捨て手袋を使わずに済む日が増えます。犬のうんち拾いの、あの素朴な手つきと、まったく同じ構造です。
ご近所からどう見られる?恥ずかしさをどう超えるか
正直、最初の朝はそれなりに恥ずかしかったです。他人の家の前でしゃがんで吸い殻を拾っている図は、第三者の目から見たら、ちょっと挙動不審に映ります。
ところが一ヶ月続けてみると、思いもよらないことがいくつか起きました。
同じルートを歩く近所の方は、必ず気づいておられるんです。最初のうちはちらっと見て黙って通り過ぎていた散歩仲間のおじさんが、ひと月たった頃に「いつもありがとうね」と低い声で言ってくださった。ドッグウォーカーをしている女性から「私もやってみようかな」と声をかけられた朝もありました。私はそのたび、リードを握る手にちょっと力が入って、しばらく背筋がしゃんとしています。
プロギングが海外で広まった理由のひとつには、個人のささやかな行動が、SNSやご近所レベルで他者に伝染していく効果がある、と読みました。たった一人で拾っている姿は、思っているよりも周囲に静かに伝わっていく。一ヶ月続けて、ようやくそのことが実感としてわかりました。
住宅街では、他人の敷地のなかにあるゴミには、絶対に手を出しません。あくまで公道上のものだけ。これは散歩中のおしっこマナーで他人の家の前を避けるのと同じ考え方で、散歩中のおしっこマナー記事 にも書いた「他人の財産には触れない」原則が、ここでも効いてくれます。
茶々丸と続けて1ヶ月、街はどう見えるようになった?
茶々丸との一ヶ月で、散歩の景色が、ずいぶん変わりました。
- 担当区間の感覚: 自分が毎朝拾っている五百メートルほどの区間が、いつのまにか、私の街として見えるようになる。新しいゴミが落ちていると、迷子を見つけたような妙な気分になる
- 拾い食いの頻度: ゼロにはならない。けれど、茶々丸が鼻先を寄せる頻度が目に見えて下がる。吸い殻が道に少なければ、そもそも引き寄せる元が、ない
- 運動強度: 同じ三十分でも、消費カロリーが二、三十キロカロリー多く出る日が出てくる。スクワット動作の積み重ねは地味に効く
- 顔見知り: 声をかけてもらえる回数が増えて、犬同士でも人間同士でも、ちょっとしたつながりが増えていく
逆に、続けてみてはじめてぶつかる落とし穴も、いくつかありました。
- 雨の日: 無理して濡れた吸い殻を拾うとストレスが溜まる。Lally の言う「一日の抜けは大きく影響しない」を信じて、すぱっと休む
- 袋が満杯: 頑張って続けて両手がふさがり、茶々丸の急な飛び出しに対応できないほうが、はるかに危ない。途中で切り上げる
- 犬や他人に気を取られている時: リードコントロールが最優先。プロギングはあくまで「余白」でやる活動と決めている
今日からできる3ステップ
ここまでの内容を、明日からの散歩にそのまま落とし込める三段ばしごの形にまとめます。
- 道具の動線を一本化する。マナー袋ケース、折りたたみトング、手袋を、リードと同じフックに掛けてしまう。リードを取りにいく動作の延長で、すべて手に取れるように固定する。装備を探す摩擦を物理的に消す(共通点1)
- 下限を「一個」にする。量のノルマは作らない。Lally の研究にしたがって、接触頻度だけを守る。余裕がある日は増やせばいい(共通点3)
- 嗅ぎ止まりに重ねる。新しい時間を作るのではなく、既存の散歩のルーティンに、犬の嗅ぎ止まりの三十秒を借りて、ほんの小さく差し込む(共通点2)
まとめ
ゴミ拾いというのは、立派な志を持った人だけのものだと、私は長らく思っていました。茶々丸との一ヶ月で、その思い込みは、ずいぶん薄らぎました。志ではなくて、ついで仕事。社会貢献ではなくて、愛犬の事故予防。立派な動機でなくたって、毎朝の袋に吸い殻が三つ四つ入っていく事実は変わりません。
茶々丸との朝の散歩で、玄関で袋の中身をあらためる瞬間が、私はけっこう好きです。派手な成果ではないんです。けれど、同じ道を一ヶ月歩いて、明らかに、ほんの少しだけ、道がきれいになっている。そのささやかな手応えが、しっぽが揺れるたびにまちが少しきれいになる、という SiPPO Friends のビジョンの、入り口だと思っています。
SiPPO Friends には、散歩中のゴミ拾いや危険箇所レポートといった地域貢献アクションを、ポイントとバッジで可視化する仕組みがあります。機能はすべて無料で、ゴミ拾いコミットメントに同意すると、拾ったという小さな事実が記録として積み上がっていきます。コミットというのは、精神論のためではなく、「続けている自分」をささやかな報酬で後ろから押すためのもの。続けるための、四つめの補助線になればと思って作りました。
同じ住宅街の朝を歩いている、どこかの飼い主の方の明日の散歩が、この長話のおかげで、ほんの少し軽くなれば嬉しいです。
出典・参考文献
- Plogging: the eco-friendly workout trend that's sweeping the globe — United Nations Environment Programme (UNEP)
- Plogging 101: A Workout That Cleans the Planet — Keep America Beautiful
- How are habits formed: Modelling habit formation in the real world — European Journal of Social Psychology (Lally et al., 2010)
- 散乱実態調査(2000年度〜2003年度) — 公益社団法人 食品容器環境美化協会
- プロギングジャパン 公式サイト — プロギングジャパン
- What is Plogging? — Plogging.org(Clean Trails, Inc. 運営、Erik Ahlström 提携)

SiPPO Friends 編集部
犬の飼い主のための情報を、海外の獣医学研究や公的機関の資料をもとにお届けします。


