犬の口臭と歯周病|3歳を過ぎた犬の多くに所見、毎日の歯磨きは本当に必要?

ある朝、茶々丸(私の愛犬・キャバプー)にあくびをされて、思わず顔をそむけました。生乾きのタオルのような、どこか酸っぱさを含んだ匂いが、ふわっと口から立ちのぼってきました。生後半年の頃には感じなかった匂いです。「歳をとると口が臭くなるのは、しょうがないのかな」と一度は流しかけました。けれど、調べてみて、考えを改めることになりました。
犬の口臭は「加齢のせい」ではなく、ほぼ歯周病のサインです。 デンマークの Kortegaard らが実験用ビーグルを精密検査した研究では、3歳を過ぎた犬の84%に歯周組織の異常が見つかっています。英国の O'Neill らが22,333頭を調べた研究では、体重10kg未満の小型犬のリスクは30〜40kgの犬の3倍以上でした。毎日の歯磨きは「推奨」ではなくて、WSAVA(世界小動物獣医師会)ガイドラインが最も効果的と位置づけているホームケアの王道にあたります。プラーク(歯垢)は24時間以内に唾液中のミネラルと結びついて硬化しはじめるため、数日間隔を空けると、歯石化を許すことになります。
この記事では、犬の口臭と歯周病の関係、日本の実態、毎日ブラッシングの根拠、そして歯磨きを嫌がる犬との付き合い方を、研究データと茶々丸との試行錯誤を交えてまとめます。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、獣医師の診断に代わるものではありません。愛犬の口腔や全身の健康に不安がある場合は、かかりつけの獣医師にご相談ください。
犬の口臭は「老化のせい」ではなく歯周病のサイン?
結論から言うと、犬の口臭の大半は、歯周病(またはその一歩手前の歯肉炎)が原因です。
犬の口腔内では、歯の表面にプラークと呼ばれる細菌の塊(バイオフィルム)が形成されます。進行の速さについては、WSAVA ガイドラインの記述がそのまま目安になります。磨いてきれいになった歯にも、放っておけば24時間でプラークが付き直す。3日で歯石になり、早ければ2週間で歯肉炎が始まる。Cornell 大学獣医学部の解説は、そのプラークが24時間以内に唾液中のミネラルと結合して硬化しはじめる、としています。付き直すのが24時間、硬くなりはじめるのも24時間——別の出来事が、同じ速さで進みます。
歯石になるとブラッシングでは落とせません。ただし歯石そのものについて、WSAVA は意外なことを書いています。歯石自体は本質的に病原性を持たない、と。炎症を起こしているのは歯ぐきの境目より下にあるプラークのほうで、だから見えている面のプラークと歯石だけを取り除いても、歯周病の進行を止めることはできない——ガイドラインはそう結論づけています。
この細菌が歯肉に炎症を起こします。歯肉炎で最初に外から見える徴候は歯ぐきの赤みで、それに続いて浮腫と口臭が現れる、とガイドラインは記しています。つまり匂いに気づいた時点で、炎症はもう始まっています。
もうひとつ、覚えておくと役に立つことが書かれています。色が変わるより前に、ブラッシングや噛むことによる歯ぐきの出血が起きる。磨いていて血がにじんだら、それは見た目の変化より早いサインだ、ということです。
口臭以外の初期サイン
口の匂いは、数ある初期サインのひとつにすぎません。以下のような変化があれば、歯肉炎〜初期歯周病を疑ってください。
- 歯と歯茎の境目が赤く腫れている
- 歯の根本に黄色〜茶色の固い付着物(歯石)が見える
- 硬いおやつを片側だけで噛むようになった
- よだれの量が増えた、よだれに血が混じる
- 口を触られるのを嫌がるようになった
- くしゃみ、鼻水(上顎の歯の根が鼻腔に近い犬種では、歯の病気が鼻症状として出る)
茶々丸の場合は、口臭のほかに、デンタルガムを奥歯で噛むときに「カリッ」ではなく「モグモグ」と前歯で扱う動きに、変わっていました。噛む角度を少し変えている、つまり奥歯の違和感を避けている可能性があります。些細な変化ですが、毎日見ている側にしか気づけないサインです。
日本と世界、犬の歯周病有病率のリアルは?
犬の歯周病は数字で見ると、かなり身近な問題で、国内外ともに「大多数」と言える水準にあります。
3歳を過ぎた犬の80%超に所見——海外の研究
海外の一次研究から見ていきます。
デンマークの Kortegaard らが2008年に Journal of Small Animal Practice に発表した疫学研究では、実験用ビーグル犬を対象にした精密検査で、次のような有病率が報告されました。
| 年齢 | 歯周組織の付着ロス(1mm以上) |
|---|---|
| 1歳 | 20% |
| 3歳超 | 84% |
同じ研究では、深い歯周ポケット(4mm以上)を持つ犬の割合が、年齢に応じて44〜81%の範囲で増えていくことも示されています。ビーグルという単一犬種・管理された環境での研究なので、全犬種にそのまま当てはめるのは慎重であるべきですが、「3歳を過ぎると大半の犬に何らかの歯周所見が出る」という傾向は、他の文献でも繰り返し確認されています。
2020年に Wallis と Holcombe が Journal of Small Animal Practice に発表したレビュー論文では、より広い視点で、こう整理されていました。一次診療の動物病院では、歯周病の診断が主に「意識のある犬の口の中を目で見る」評価に頼っているため、診断される犬の割合は平均9.3〜18.2%にとどまる。一方、麻酔下で詳しく調べた研究では44〜100%の犬に所見が認められる。
同じ犬たちを見ているはずなのに、診る方法で数字が4倍以上に開きます。見落とされている「隠れ歯周病」が、かなり多いということです。
日本では76.3%が予備軍——アニコムの調査
日本での代表的なデータは、アニコム損害保険が2010年に公表した歯科検診調査です。この検診では、対象となった780頭の犬のうち76.3%が歯垢・歯石の沈着など歯周病の予備軍に該当する症状を示していたそうです。
世界と日本、出し方は違っても、同じ結論にたどり着きます。「ほとんどの犬が、何らかの口腔トラブルを抱えている」。これが前提です。
小型犬・トイ種はなぜ歯周病リスクが高い?
ここから、さらに現実味を帯びてきます。日本の飼育頭数上位はトイプードル、チワワ、ミニチュアダックスフンド、柴犬などの小〜中型犬が占めますが、このサイズ帯こそ、歯周病リスクが高いことがわかっています。
O'Neill らが2021年に Journal of Small Animal Practice に発表した英国の22,333頭を対象にした疫学研究は、飼い主として知っておくべき数字を、並べています。
| 体重 | 歯周病リスク(30-40kgの犬を1.0とした場合) |
|---|---|
| 10kg未満 | 3倍以上 |
| 30〜40kg | 1.0(基準) |
O'Neill らの同じ研究では、犬種別の有病率でも、トイプードル(約26%)、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル(約25%)といった日本でも人気の犬種が、トップ層に並びます。ちなみに有病率の1位はグレイハウンド(約32%)で、論文は「グレイハウンドを除けば、これらはすべて小型犬種だ」と注記しています。つまり、茶々丸(キャバリア×トイプードル)は、まさに「両親どちらも高リスク」というダブル要因を抱えていることになります。
小型犬・トイ種が弱い理由は、どこまで分かっている?
ここは調べていて一番慎重になったところです。よく見かける理由——顎が小さくて歯並びが密になる、長生きする分だけ歯を使う年数が長い、硬いものを噛まないから自浄作用が働かない——を出典に当たって確かめようとしたら、ほとんど裏が取れませんでした。
WSAVA のガイドラインは「小型犬とトイ種はとくに感受性が高い」と事実としては書いていますが、その理由は書いていません。「小型犬では下顎第一後臼歯が顎の高さに対して大きい」という記述はあります。ただしこれは歯の解剖の説明として、そして顎の骨が折れやすい(病的骨折)リスクの文脈で出てくるもので、歯周病になりやすい理由としては提示されていません。
「硬いものを噛めば歯がきれいになる」に近い考えは、むしろ否定されています。ガイドラインは乾いた硬いフードが歯を磨くという話を「よくある神話」と呼び、標準的なドライフードが歯周病のリスクを有意に下げるようには見えない、と書いています。野生の肉食動物は歯石が明らかに少ないのに、歯周病の程度は飼育下の動物と同じくらいだった、という報告も添えられています。
寿命の話も、この記事の出典では裏づけられませんでした。O'Neill らの「3倍以上」は年齢を含めて調整したあとの値なので、「長生きするから」では説明がつきません。
理由として出典が取れたのは、O'Neill らの論文の考察のほうでした。
小型犬で歯周病が多い背景には、生まれ持った遺伝的な感受性に加えて、とても小さな犬の歯を磨くことの難しさ、デンタルガムを受け入れにくいこと、偏食の傾向があるのかもしれません。(O'Neill ら 2021年「Epidemiology of periodontal disease in dogs in the UK primary-care veterinary setting」より、筆者訳)
生まれ持った素因だけではなく、飼い主が磨きにくい、犬が嫌がる、おやつを選り好みする——そういう世話の側の理由が並んでいます。裏を返せば、ここは飼い主が手を入れられる部分だということです。
動物病院で、獣医さんにこう言われたことがあります。「キャバプーちゃんは三歳を過ぎたら歯科を意識してあげてね」。まだ2歳だから、と付け足されました。
三歳という線引きが、さきほどの Kortegaard らの数字と重なります。飼い主の実感が追いつく前に、口の中では変化が始まっている犬種がある、ということだと受け取りました。
毎日の歯磨きは本当に必要?週1〜2回では足りないのか?
ここが、一番気になるポイントだと思います。毎日は面倒です。私も最初は「週に何回かでいいでしょ」と思っていました。
結論を先に言うと、毎日が必要です。理由はプラークの形成スピードにあります。
プラークは24時間で硬化しはじめる
犬の口腔内細菌のライフサイクルを知っておくと、ケア頻度の理由がわかります。
- WSAVA ガイドラインによれば、磨いてきれいにした歯にも、そのままにすれば24時間でプラーク(細菌のバイオフィルム)が付き直す。
- Cornell大学獣医学部によれば、そのプラークは24時間以内に唾液中のカルシウムなどのミネラルと結合して歯石(タルタル)に向かって硬化しはじめる。
- 段階で言えば、プラークが24時間、歯石が3日、歯肉炎は早ければ2週間。これも WSAVA ガイドラインの記述。
- 歯石になるとブラッシングでは除去できず、動物病院で麻酔下のスケーリング処置が必要になる。
つまり、「昨日磨いたから今日はいいや」は通用しにくいということです。一日あいだを空けるたびに、石灰化の一歩手前にあるプラークを、放置することになります。
私はここで、何か抜け道はないものかと、しばらく探しました。ありませんでした。Cornell 大学獣医学部の解説は、こう言い切っています。
犬の歯を磨くことは、歯科疾患を防ぐためのホームケアとして最も効果的な方法です。(Cornell University College of Veterinary Medicine「Dental Disease and Home Dental Care」より、筆者訳)
代わりになるものを探していた私は、ここであきらめました。
WSAVA(世界小動物獣医師会)が2020年に公表したグローバル歯科ガイドライン(Niemiec et al.)も、ホームケアの柱に「毎日のブラッシング」を据えています。デンタルガムや液体歯磨きといった補助ケアは、歯磨きの代替にはならないと整理されています。
週1〜2回の歯磨きでは追いつかない理由
WSAVA のガイドラインは、頻度ごとに線を引いています。理想は1日1回。隔日のブラッシングは歯肉炎の抑制に有効ではなかったとされ、口の状態が良い犬で「最低ライン」とされているのが週3回です。そして週1回は、口腔の健康を保つには不十分だと明記されています。すでに歯周病がある犬では毎日が必須で、1日2回が推奨される場合もあります。
つまり「週1〜2回でも磨かないよりマシ」で止めると、ガイドラインが引いた最低ラインを下回ります。24時間で硬化しはじめるプラークに追いつくには、毎日が前提になります。
もうひとつ、同じガイドラインに書かれていることがあります。ブラッシングを1ヶ月止めると、歯肉の炎症は元の水準まで戻る。逆に読めば、1日や2日の抜けで振り出しに戻るわけではない、ということです。
現実的な落としどころとして私が獣医さんに言われたのは、「まず毎日を目指してみて。続かないなら、忙しい日はデンタルシートやガーゼで拭くだけでもいい。完全にゼロの日をつくらないのが肝心」ということでした。ブラシで磨けるに越したことはありませんが、接触させる頻度のほうが優先順位が高い、ということです。
自宅で犬の歯磨きを始める3ステップは?
茶々丸もそうでしたが、いきなり歯ブラシを突っ込むと、ほぼ百パーセント嫌われます。段階を踏むのが、結局一番の近道です。
ステップ1:口を触られることに慣らす(1〜2週間)
おやつを使いながら、唇をめくる → 前歯に指を触れる → 奥歯の横側をなでる、という順で、毎日少しずつ慣らしていきます。1回10〜20秒でいい。成功したら褒めて、おやつ。嫌がったら無理せず、前のステップに戻る。
茶々丸は最初、唇をめくられるだけで顔をそむけていました。三日目くらいから諦めて大人しくなり、一週間目には「おやつタイムだ」と学習して、しっぽを振ってくるようになりました。
ステップ2:指やガーゼで歯の表面を擦る(1〜2週間)
犬用の歯磨きペースト(人間用の歯磨き粉は犬が誤飲する前提では推奨されません。キシリトール配合のものは犬に中毒を起こすため特に避ける)を指に少量つけ、前歯 → 奥歯の順に、やさしくなぞります。ガーゼを指に巻いて擦るのでもいい。どの製品が向くかは、獣医師に相談して選ぶのが、確実です。
ペーストの味は、鶏肉・ビーフ・ミルクなど犬が好むフレーバーが市販されています。果物系もあって、茶々丸に使っているのは苺味です。「これは美味しいやつ」と誤解してくれて、一気に抵抗が減りました。
ステップ3:歯ブラシを導入する
ヘッドの小さい犬用歯ブラシを使います。動物病院で相談すると、口のサイズに合ったものを勧めてくれることが多いです。指サックタイプのブラシから始めるのも、手です。
磨く順番は、奥歯の外側 → 前歯の外側 → 奥歯の内側 → 前歯の内側。外側(頬側)に歯石はつきやすいので、ここを重点的に。1本の歯につき5〜10秒、全体で2〜3分が目安。
嫌がるサインが出たら、その日はそこで終わる。それだけで十分です。無理やり続けると「歯磨き=嫌なこと」という関連付けが強固になって、翌日の出だしが、また一から、ということになります。
うまくいかない日のための「プランB」
毎日完璧にブラシで磨ける日ばかりじゃ、ありません。仕事で疲れて帰った夜、茶々丸が既に寝てしまっている時、こちらが体調を崩している時。
これは意志の弱さの問題ではないようです。WSAVA のガイドラインが引いている調査では、意欲の高い飼い主でも歯磨きの継続率は半年後に約50%まで落ちていました。さらに同じガイドラインは、受動的なケアのほうが能動的なケアより優れている可能性を示した研究にも触れています。理由は単純で、そちらは実際に実行されるからです。ガイドラインの結論は、能動と受動の組み合わせがおそらく最良、というものでした。
そのうえで、代替ケアの選択肢です。
- 犬用デンタルシート(指に巻いて歯をサッと拭く。30秒)
- 犬用デンタルガム(VOHC認証マークのあるものを選ぶ)
- 液体歯磨き(飲み水に混ぜるタイプ。ただし WSAVA は、スプレー・すすぎ・飲み水添加剤ではプラークを落とすには不十分だと位置づけています。犬での有効性を示す査読済みの根拠は乏しいのが現状です)
ただしこれらは、歯磨きの代わりにはなりません。ガイドラインが繰り返しているのは、製品は歯ぐきの境目とその下まで届く必要があるという点です。ガーゼや布で拭く方法も、歯ぐきの下を掃除できないため、日常のケアとしては一般に推奨されていません。ただし口を触られることに慣らす段階は別で、ガイドライン自身が「まず口を持つ、次に指、最後にゆっくりブラシへ」という順序を勧めています。「磨けない日の埋め合わせ」と割り切って使ってください。
歯周病は心臓・腎臓・肝臓のリスクも上げるって本当?
ここからは、少し怖い話になります。歯周病は、口の中だけの問題ではない、というエビデンスが蓄積しています。歯みがきが「長生きのための習慣」として語られる理由も、ここにあります(体重管理をはじめとした他の習慣は 愛犬の寿命を延ばす5つの習慣 にまとめました)。
剖検研究:歯周病が重いほど内臓に病変
解剖してわかったことから見ていきます。
Pavlica らが2008年に Journal of Veterinary Dentistry に発表した研究では、亡くなったトイプードルとミニチュアプードル44頭を詳細に解剖し、歯周病の重症度と各臓器の病変の関連を分析しました。歯周病病巣が1cm²広がるごとに、各臓器で「より重い病変が存在するオッズ」がどれだけ上がるかを見た結果が、次のとおりです。
| 臓器 | 病変リスクの上昇 |
|---|---|
| 左房室弁(心臓) | 1.4倍 |
| 腎臓 | 1.4倍 |
| 肝臓 | 1.2倍 |
歯周病の程度が強いほど、内臓に異常所見が多く見つかる傾向が、はっきりしていました。
12万頭規模のコホート研究
Glickman らが2009年に JAVMA に発表した研究は、規模のインパクトで、抜きん出ています。歯周病と診断された犬59,296頭と、年齢を合わせた対照犬59,296頭、計約12万頭を追跡した、大規模コホート研究です。
結論は、歯周病の重症度が高いほど、心内膜炎・心筋症のリスクが有意に上昇する、という内容でした。歯周ポケットから血管内に侵入した細菌が、心臓の弁に付着して炎症を引き起こすメカニズムが、想定されています。
なぜ歯周病が全身に広がるのか
なぜ口の中の炎症が全身に及ぶのか。WSAVA ガイドラインが示す道筋はこうです。歯肉と歯周組織に炎症が起きると、体の防御が侵入者を攻撃できるようになる。その一方で、同じ経路から細菌が体内に入り込めるようにもなる。入るのは細菌だけではなく、リポ多糖(LPS)のような炎症性の物質も一緒だ、と。ガイドラインは影響を受ける臓器として、肝臓・腎臓・心臓・肺の節を分けて論じています。
ただし、ガイドライン自身が前置きを付けています。現時点で因果関係は示されておらず、研究の多くはヒトのものだ、と。関連を示す証拠が積み上がっている段階、という受け取り方が正確です。それでも、歯周病が口の中だけの話で終わらない可能性がある、というだけで、毎日磨く理由には十分だと思っています。
愛犬の口臭が「なんとなく気になる」レベルを超えて強いなら、口の中だけでなく全身のことを、少し一緒に考えてみてほしいと思っています。
茶々丸(キャバプー)の歯磨きを、夜に続けている理由
キャバプーは前述のとおり、両親犬種(キャバリアとトイプードル)のどちらも歯周病リスクが高い犬種です。だから茶々丸の歯磨きを遅らせる理由は、最初から見つかりませんでした。この犬種リスクを知ったことが、そのまま続けている動機になっています。
磨くのは夜です。毎日やっています——と書きたいところですが、正直に書くと、ほんとうに時々、忘れる日があります。
そこは隠さずに置いておきます。プラークが24時間で硬化しはじめると知ったあとだと、一日抜けるのは気になります。ただ、抜けた日を悔いて歯ブラシごと遠ざけてしまうより、翌日また磨くほうが続きます。ステップ1から積み上げた「歯磨きは嫌なことではない」という関連付けを壊さないことのほうが、一日の抜けより大事だと考えています。
月1の「口内チェック」も習慣化
別の記事(犬のBCS完全ガイド)で書いたように、月一回の体型チェックを、毎月一日の朝にやっています。同じ日に口内チェックも一緒にするようにしました。
唇をめくって、奥歯の黄ばみがないか、歯茎の赤みがないか、歯がぐらついていないかを見ます。一分で終わります。大事なのは「記録を残す」ことです。スマホのメモ帳に「四月一日:右上奥歯に薄い黄ばみあり」のように残しておくと、次回の動物病院の受診時に獣医さんと共有できます。
麻酔下スケーリングは、いつ必要になる?
歯磨きをどんなに真面目にやっても、歯石が全く付かないわけでは、ありません。麻酔下でのスケーリングが必要になる時期は、多くの犬ではいずれ来ます。
ただし、その間隔の書き方には注意が必要です。「小型犬なら一〜二年に一回」といった年数の目安を挙げる記事をよく見かけますが、WSAVA のガイドラインを読み直しても、年数での間隔は示されていませんでした。書かれているのは、別のことでした。歯石自体は本質的に病原性を持たないのだから、専門的な処置が必要かどうかは歯肉の炎症の程度で判断すべきである——そう明記されています。あわせて、ホームケアがなければ専門的な歯周治療の効果は大きく制限される、という関係も書かれています。
茶々丸についても、獣医さんからは「歯石は少し付いているけれど、まだ取るほどじゃない」と言われています。そして続けて言われたのが、「歯茎が赤くなってきたらやるべき」でした。カレンダーではなく、歯茎の状態が判断の入口になっている。ガイドラインの書き方と、同じ向きでした。だから毎日の歯磨きで「いつ麻酔処置が必要になるか」を遅らせていけるなら、それだけで、十分な意味があります。
SiPPO Friendsの活用
歯科関連の情報も、健康ハブに集約できます。通院記録に歯科健診のメモ、服薬記録にデンタルガムの種類、体重と一緒に月一の口内チェックの所見を残しておく。数字と手触りの両方でコンディションを見る、という BCS 記事(犬のBCS完全ガイド)で書いた姿勢は、口腔ケアにもそのまま当てはまります。
まとめ
茶々丸のあくびに顔をそむけたあの朝から振り返ると、分かったのはこういうことでした。犬の口臭を「年齢のせい」で片付けるのは、もったいないし、危険です。
- 実験用ビーグルの研究では、3歳を過ぎた犬の84%に歯周組織の付着ロス
- 麻酔下で精密に診た研究では44〜100%に所見。無麻酔の目視診察では平均9.3〜18.2%しか見つからない
- 日本のアニコム調査では76.3%の犬が歯周病予備軍
- 体重10kg未満の小型犬は30〜40kgの犬の3倍以上のリスク。トイプードル・キャバリアは特に要注意
- プラークは24時間で付き直し、3日で歯石になる。毎日のケアでしか追いつかない
- 歯周病と全身疾患の関連を示す研究は積み上がっている(ただし因果は未確定)
- 継続率は意欲の高い飼い主でも半年で約50%に落ちる。一日の抜けを悔いるより、やめないことが大事
明日の朝、愛犬が口を開けたとき、歯と歯茎の境目を、五秒だけ覗き込んでみてください。赤み、黄ばみ、匂い——何かひとつでも「あれ?」と感じたら、それがスタート地点です。続ける仕組みさえ作れれば、毎日の三分が、この先いちばん効くホームケアになります。茶々丸と向き合いながら、私もそう思って、歯ブラシを手に取る日々を続けています。
よくある質問
- 犬の口臭の原因は何ですか?
- 大半は歯周病、またはその一歩手前の歯肉炎が原因です。WSAVA の2020年グローバル歯科ガイドラインによれば、磨いた歯にもプラークは24時間で付き直し、3日で歯石になり、早ければ2週間で歯肉炎が始まります。歯肉炎で最初に外から見える徴候は歯ぐきの赤みで、それに続いて浮腫と口臭が現れます。加齢そのものが匂いを作るわけではないため、口臭は受診を検討するサインとして扱ってください。
- 犬の歯磨きは毎日しないとダメですか?
- 毎日が推奨です。Cornell 大学獣医学部によれば、プラークは24時間以内に唾液中のミネラルと結合して歯石に向かって硬化しはじめます。歯石になるとブラッシングでは落とせず、除去には麻酔下の処置が必要になります。WSAVA の2020年グローバル歯科ガイドラインも毎日のブラッシングを柱に据え、デンタルガムや液体歯磨きは代替にならないと整理しています。
- 犬の歯周病はどのくらいの割合で起きていますか?
- デンマークの Kortegaard ら(2008年)が実験用ビーグル98頭を精密検査した研究では、1歳で20%、3歳を過ぎた犬では84%に歯周組織の付着ロスが見られました。単一犬種・管理環境のデータである点は差し引いて読む必要があります。日本ではアニコム損害保険の2010年の歯科検診調査で、780頭のうち76.3%が歯垢・歯石の沈着など歯周病の予備軍に該当しています。
- 小型犬は歯周病になりやすいのですか?
- なりやすいです。O'Neill ら(2021年)の英国22,333頭を対象にした研究では、体重10kg未満の犬の歯周病リスクは30〜40kgの犬の3倍以上でした。犬種別ではトイプードル約26%、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル約25%と高い数字でした。同じ論文の考察は理由として、生まれ持った遺伝的な感受性に加えて、とても小さな犬の歯を磨くことの難しさ、デンタルガムを受け入れにくいこと、偏食の傾向を挙げています。
- 犬の歯周病は他の病気につながりますか?
- 関連を示す研究があります。Pavlica ら(2008年)の剖検研究では、歯周病病巣が1cm²広がるごとに心臓の左房室弁と腎臓の病変リスクが1.4倍、肝臓が1.2倍でした。Glickman ら(2009年)の約12万頭のコホート研究でも、歯周病の重症度が高いほど心内膜炎・心筋症のリスクが有意に上昇しています。
出典・参考文献
- Periodontal disease in research beagle dogs—an epidemiological study — Journal of Small Animal Practice (Kortegaard et al., 2008)
- A review of the frequency and impact of periodontal disease in dogs — Journal of Small Animal Practice (Wallis & Holcombe, 2020)
- Epidemiology of periodontal disease in dogs in the UK primary-care veterinary setting — Journal of Small Animal Practice (O'Neill et al., 2021)
- WSAVA Global Dental Guidelines(全文 PDF) — World Small Animal Veterinary Association (Niemiec et al., 2020)
- World Small Animal Veterinary Association Global Dental Guidelines(書誌情報) — Journal of Small Animal Practice (Niemiec et al., 2020)
- Periodontal Disease Burden and Pathological Changes in Organs of Dogs — Journal of Veterinary Dentistry (Pavlica et al., 2008)
- Evaluation of the risk of endocarditis and other cardiovascular events on the basis of the severity of periodontal disease in dogs — Journal of the American Veterinary Medical Association (Glickman et al., 2009)
- 76.3%が歯周病の予備軍、愛犬も歯みがきの習慣化を! — アニコム損害保険
- Dental Disease and Home Dental Care — Cornell University College of Veterinary Medicine
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SiPPO Friends 編集部
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