犬の無麻酔歯石除去はなぜ勧められない?農水省の見解と麻酔リスクの実数

茶々丸(私の愛犬・キャバプー)の歯に、歯石が少し付いています。動物病院で言われたのは「まだ取るほどじゃない」でした。
そのあと、犬の歯石を麻酔なしで取るサービスがあることを知りました。トリミングサロンやイベント会場で受けられるそうです。調べていて目についたのは、麻酔への不安でした。AAHA のガイドラインも、麻酔への懸念は飼い主が口腔ケアを断るときによく挙げる理由だ、と書いています。
無麻酔での歯石除去は、国内外の獣医歯科の専門団体が揃って否定しています。 米国獣医歯科学会(AVDC)は見えている面の歯石を取る効果を「純粋に見た目だけ」と述べ、WSAVA(世界小動物獣医師会)は無効なだけでなく病態を隠して治療を遅らせると指摘し、AAHA(米国動物病院協会)は端的に「容認できない」と書いています。日本小動物歯科研究会も同じ立場です。
この記事では、その理由と、そもそもの入口にある「麻酔が怖い」に数字で向き合います。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、獣医師の診断に代わるものではありません。愛犬の口腔ケアや麻酔について判断が必要な場合は、かかりつけの獣医師にご相談ください。
無麻酔の歯石除去は、なぜ勧められないの?
結論から言うと、歯周病が進行する場所に器具が届かないからです。
歯周病が起きているのは、歯ぐきの境目より下(縁下)です。AVDC の2024年4月採択のポジションステートメントは、麻酔をかけていない動物では全部の歯の縁下に器具を届かせることは不可能だと述べています。そのうえで、見えている面の歯石を取ることについてこう書いています。
見える面の歯石を取り除いても、ペットの健康にはほとんど効果がなく、達成感という誤った感覚を与えるだけです。その効果は純粋に見た目だけのものです。(American Veterinary Dental College「Position Statement on Anesthesia-Free Dentistry」より、拙訳)
WSAVA のガイドラインは、もう一段踏み込んでいます。
したがって、この処置は無効であるだけでなく、しばしば存在する病態を覆い隠し、適切な治療を遅らせる結果になります。(WSAVA Global Dental Guidelines より、拙訳)
無効なだけではなく、隠してしまう。ここが怖いところです。歯石が取れて見た目がきれいになると、飼い主も「済んだ」と思ってしまいます。
AAHA の2019年ガイドラインは、いわゆる無麻酔歯科について、麻酔下で歯ぐきの上と下を清掃する能力と比べて安全だとも同等だとも示されていない、したがって容認できない、と記しています。3つの団体が別々の言葉で同じ結論に着いています。
そもそも歯石を取れば、歯周病は防げるの?
防げません。ここが、多くの人の期待とずれている部分です。
日本小動物歯科研究会は、資料の中でこう述べています。
歯石は歯周炎の直接的な原因ではないので、歯石をとったからといって歯周炎を予防したことにも、治療したことにもなりません。歯周炎の原因は、歯垢(プラーク、バイオフィルムの一種)です。(日本小動物歯科研究会「無麻酔で歯石をとる?!」より)
WSAVA も同じ整理をしています。歯石そのものは本質的に病原性を持たない、と明記したうえで、炎症を起こしているのは歯ぐきの境目より下にある歯垢のほうだとしています。だから見えている面の歯垢と歯石だけを取り除いても、歯周病の進行は止められません。
面白い傍証もあります。野生の肉食動物は歯石が明らかに少ないのに、歯周病の程度は飼われている同種の動物と同じくらいだった、という報告がガイドラインに添えられています。歯石の量と歯周病の重さは、そのまま対応しないということです。
この記事の姉妹編にあたる犬の口臭と歯周病の記事で書いたとおり、予防の主役は毎日の歯磨きです。歯石を取ることではありません。
では、いつ麻酔下の処置をやるべき?
ここは、調べていて一番ねじれていたところです。「年数ではなく歯ぐきの状態で決まる」という理解は、半分だけ正しくて、半分は違いました。
繰り返しの間隔については、確かに年数の目安が置かれていません。「小型犬なら一〜二年に一回」といった数字を見かけますが、WSAVA と AAHA のどちらを読み直しても、間隔を年数で示した記述は見つかりませんでした。WSAVA が書いているのは、歯石自体は病原性を持たないのだから、専門的な処置が必要かどうかは歯肉の炎症の程度で判断すべきである、という基準のほうです。
ただし「最初の1回」については、AAHA が年齢で線を引いていました。
明らかな病変がない状態での、本来の意味での歯科予防処置(完全な歯面清掃、研磨、口腔内レントゲン)は、猫と小型〜中型犬では1歳までに、大型犬では2歳までに推奨されます。(2019 AAHA Dental Care Guidelines より、拙訳)
飼い主への説明例として、意識のある状態の検査で異常が見えなくても1〜2歳の間に麻酔下の口腔検査とレントゲンと清掃が必要になる、という言い方も挙げられています。そしてこの記述には、見た目が正常な歯の28%にレントゲンで所見が見つかったとする研究が、脚注としてついています(この研究は後ほど詳しく取り上げます)。
つまり、こういう理屈です。見た目が正常な歯の28%に所見があるのだから、見た目が正常であることを待つ理由にしてはいけない。だから年齢で区切る。28%という数字と、年齢の線引きは、同じ主張の表と裏でした。
茶々丸の担当の獣医さんに言われたのは「歯石は少し付いているけれど、まだ取るほどじゃない」「歯茎が赤くなってきたらやるべき」でした。歯ぐきの状態を見て決める、という判断です。AAHA の基準に当てはめるなら、茶々丸(2024年6月生まれの小型犬)はもう対象の年齢を過ぎています。
どちらが正しいと言える立場ではありません。ただ、自分がどちらの基準で判断しているのかは、把握しておいたほうがよさそうです。次の受診で聞いてみるつもりです。
なお AAHA は、意識のある状態での口腔検査は6ヶ月ごとが適切だとも書いています。麻酔下の処置をいつやるかとは別に、口の中を見てもらう機会そのものは、半年に一度が目安ということになります。
麻酔なしだと、具体的に何が起きる?
3つの層に分けて見ていきます。届かない、見えない、撮れない、です。
届かない・見えない
AVDC は、無麻酔の処置が不適切である理由を5つ挙げています。縁下に器具が届かないことに加えて、意識のある患者では完全な口腔検査ができないことも挙げています。舌側の面は見ることができず、病変や不快感のある部位は見落とされる可能性が高い、と書かれています。
撮れない
ここが、調べていて一番こたえた部分です。
先ほど触れた、AAHA のガイドラインが引用している研究です。見た目が完全に正常な犬の歯のうち28%に、レントゲンで臨床的に重要な所見が見つかりました。猫では42%です。そしてガイドラインは、全ての歯科症例に対して全顎の口腔内レントゲンを強く推奨しています。
意識のある犬に、口の中のレントゲンは撮れません。つまり無麻酔の処置は、縁下を掃除できないだけでなく、見た目では分からない4分の1以上の問題を、まるごと見送ることになります。AVDC も、口腔内レントゲンは口腔がんや炎症性疾患、歯内疾患のスクリーニングにおいて決定的に重要だと述べています。
事故が起きる
日本のデータがあります。日本小動物歯科研究会が2019年に会員へ実施したアンケートでは、172施設から無麻酔の歯垢・歯石除去に関する情報が寄せられ、そのうち97施設が有害事象について回答しました。報告された内訳は次のとおりです。
| 歯科領域の事象 | 件数 |
|---|---|
| 歯周病の改善がみられない、もしくは悪化した | 27 |
| 口周囲を触らせなくなった・歯周病確認の遅れ | 23 |
| 口腔内粘膜などの損傷・出血(縫合を必要とする) | 19 |
| 下顎骨の骨折 | 18 |
| 歯の破折 | 12 |
| 口腔粘膜潰瘍を発症 | 4 |
| 歯の脱臼 | 3 |
歯科以外の領域でも、26件の報告がありました。
| 歯科以外の事象 | 件数 |
|---|---|
| 股関節脱臼・椎間板ヘルニアなど | 13 |
| 処置後の心不全症状・腎機能異常・食欲不振 | 4 |
| 処置中または処置翌日に死亡 | 3 |
| 誤嚥性肺炎・細菌性肺炎 | 2 |
| 処置後に攻撃的な性格になった | 2 |
| 破折したハンドスケーラー先端の誤飲 | 1 |
| 眼圧上昇 | 1 |
四肢の骨折・脱臼については、報告のなかで強制的な保定が原因と思われると書かれています。口の中だけの話ではありません。
なぜこうなるのかは、同研究会の資料が具体的に説明しています。スケーラーは先端に刃物が付いていて歯の面ではよく滑る。犬は動く。だから歯肉や舌、口腔粘膜を容易に傷つける。鉗子で歯石を割って除去するときに歯を一緒に折って露髄させた例もある。歯がぐらついている状態なら、歯根を残したまま歯が折れたり顎の骨を折ったりする危険もある。上顎の奥の歯を乱暴に扱えば、唾液腺の導管の開口部を傷つけ、大きな血管を切ってしまいかねない。
これらは、どれも「うまくいかなかった例」ではありません。意識のある動物の口に鋭利な器具を入れるという構造そのものから出てきます。
人の歯科医が、自分の犬で試した記録
日本小動物歯科研究会の資料に、変わった立場からの報告があります。ヒトの歯科医師が、自分の愛犬で無麻酔の歯石除去を試した記録です。
金属性のスケーラーを歯に当てると犬は首を激しく振り嫌がります。頭を強制的に押さえると体を強張らせ逃れようともがきます。この状況では歯石除去はできません。結局、歯石除去は断念しました。(深川雅彦「無麻酔下での歯石除去の問題点」より)
同じ資料には、愛犬が金属製のスケーラーを見ただけで顔を背けた、除石時の痛みには渾身の力を振り絞って抵抗した、とも書かれています。そして「動物に優しい」という売り文句について、意識がある状態で体を押し付けて治療を行えば犬を苦しめることになるので、それは動物に優しいことにはならない、と結論づけています。
歯を削る技術を持っている人が、道具も理屈も分かったうえで、自分の犬では成立しないと判断した記録です。
犬の全身麻酔は、実際どれくらい危険なの?
ここまで読んで、それでも麻酔が怖いという気持ちは残ると思います。私自身は、茶々丸の避妊手術のときに麻酔を怖いと思いませんでした。まわりがみんなやっているものだと思っていたので、疑いもしなかったというのが正直なところです。だから最初、無麻酔を選ぶ人の気持ちをうまく想像できませんでした。
AVDC のポジションステートメントは、その気持ちを否定していません。
ペットの飼い主が、自分のペットに麻酔が必要だと言われて心配になるのは自然なことです。(American Veterinary Dental College「Position Statement on Anesthesia-Free Dentistry」より、拙訳)
自然なことだ、と書いたうえで、次の段落から理由を並べています。では実数はどうなのか。
健康な犬では0.05%、1,849頭に1頭
英国の117施設で犬98,036頭を追跡した CEPSAF 研究(Brodbelt ら 2008年)が、麻酔・鎮静に関連した死亡のリスクを報告しています。処置から48時間以内の死亡を数えています。
| 犬の状態 | 麻酔・鎮静関連死のリスク |
|---|---|
| 健康(ASA 1〜2) | 0.05%(1,849頭に1頭) |
| 全体 | 0.17%(601頭に1頭) |
| 持病あり(ASA 3〜5) | 1.33%(75頭に1頭) |
健康な犬なら1,849頭に1頭、持病のある犬なら75頭に1頭。「麻酔は危ないか」という問いへの答えは、犬の状態によって大きく変わるということです。
ただし、この数字には大きな限定がつきます。2002年から2004年にかけての英国のデータで、日本の現在の数値ではありません。以後20年あまりの麻酔薬とモニタリング技術の進歩は反映されていません。研究自体も、小動物の麻酔はますます安全になってきているようだ、と結論しています。
「鎮静だけなら安全」ではない
WSAVA のガイドラインは、無麻酔を選ぶ理由として挙げられがちな考えを、正面から否定しています。
健康な、あるいは軽度の問題を抱えた程度のペットでは麻酔のリスクは低く、特に訓練を受けた者が行う場合はそうであって、麻酔を避けることは妥当な懸念ではない、というのがガイドラインの記述です。さらに、鎮静が全身麻酔より常に安全とは限らず、獣医師も飼い主もこの点を認識していないことがある、と注意しています。
理由は3つ挙げられています。鎮静で必要になる薬のなかには特定の症例では禁忌のものがあること。心肺のモニタリングが鎮静下では容易に行えないこと。そして気道が保護されないため、血液や唾液、削りかすの誤嚥が起こりうることです。
もうひとつ、見落とされがちな指摘があります。こうした処置では通常、鎮痛が提供されていない、という点です。
一方で全身麻酔は、気道の保護と適切な換気、心肺機能の綿密なモニタリングを可能にし、麻酔のプロトコルは症例ごとに調整できる、とガイドラインは書いています。
WSAVA はこの節を、専門職としてもっとうまくやれるはずであり、無麻酔歯科はその考え方の一部ではない、という一文で締めています。
麻酔のリスクを下げるために、飼い主ができることは?
CEPSAF 研究には、飼い主が直接行動に移せる発見がひとつあります。
犬の麻酔関連死のうち、47%は麻酔中ではなく術後に起きていました。猫では61%、ウサギでは64%です。研究の結論も、術後の患者管理を手厚くすれば死亡を減らせるだろう、と述べています。
麻酔と聞くと、眠っている間の出来事を想像します。実際に半数近くが起きているのは、そのあとです。だとすると、帰宅してからの見守りには意味があるということになります。ぐったりしていないか、呼吸が苦しそうでないか、水を飲めているか。病院から渡される注意事項を、帰宅後に読み返す時間を作っておくのがよさそうです。
病院で確認しておきたいことも、ガイドラインから引けます。AAHA は全ての歯科症例に全顎の口腔内レントゲンを強く推奨しているので、処置の内容にレントゲンが含まれるかどうかは聞いておく価値があります。麻酔前の検査で何を見るのかも、あわせて確認しておきたいところです。
なお AAHA のガイドラインは、Boehringer Ingelheim Animal Health USA、Hill's Pet Nutrition、Midmark からの教育助成を受けて作成されたと明記しています。Midmark は動物病院向けの歯科機器・麻酔器のメーカーです。同時に、正式な査読プロセスを経ているとも記されています。判断の材料として、両方書いておきます。ちなみに、今回参照した AVDC と WSAVA の文書には、資金提供に関する記載は見当たりませんでした。
獣医師以外が歯石を取るのは、違法なの?
結論から言うと、対価を得て他人の犬に行えば違法となる可能性があり、飼い主が自分の犬に行うことは獣医師法17条の禁止の対象外です。ただしそれは、安全だという意味ではありません。
ここは条文だけでは決まらないので、順を追います。
獣医師法17条は、こう定めています。
獣医師でなければ、飼育動物(牛、馬、めん羊、山羊、豚、犬、猫、鶏、うずらその他獣医師が診療を行う必要があるものとして政令で定めるものに限る。)の診療を業務としてはならない。(獣医師法 第十七条)
犬は条文に明記されています。そして27条が、違反した者を2年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金に処し、またはこれを併科すると定めています。2025年6月に施行された刑法改正で懲役と禁錮が一元化されたため、現在の条文は拘禁刑という表記になっています。
ただし、この条文が禁じているのは「診療」を業務とすることであって、歯石除去という行為を名指ししてはいません。「診療」が何を指すのかも、条文の中には書かれていません。
その空白を、農林水産省の公式Q&Aが埋めています。
スケーラーを用いる歯石除去は、獣医師の獣医学的判断及び技術をもって行う診療行為です。(農林水産省「小動物獣医療等に関するよくある質問」問3)
同じQ&Aの問4は、獣医師法における「診療」の定義そのものを示しています。飼育動物の疾病についての診察、診断、治療だけでなく、獣医師の獣医学的判断や技術がなく実施した場合に飼育動物へ危害を及ぼすおそれのある一切の行為を意味する、という広い定義です。
ジャパンケネルクラブも2024年3月に注意喚起を出しています。獣医師法と農林水産省のホームページを根拠に挙げたうえで、獣医師以外の者が歯石除去を業とする行為は違法となる可能性があるので注意してほしい、という内容です。
「業務として」がどこにかかるか
大事なのは、17条が禁じているのが診療を「業務として」行うことだという点です。ジャパンケネルクラブの文章も、この要件を押さえています。自身が所有する飼育動物ではなく他人の飼育動物に対して歯石除去を行い、その対価を求める行為、つまり歯石除去を業とする行為が対象だと書かれています。
農林水産省のQ&Aも、先ほどの「診療」の定義に続けて、具体的な事例については社会通念等に照らして個別に判断されるものになる、と付け加えています。行政も個別判断だと言っているわけです。
したがって、料金を取って他人の犬に行うサービスと、飼い主が自分の犬に対してやることは、法律上の位置づけが違います。後者は17条の禁止の射程には入りません。
ここだけは覚えておいてください。法律に触れないことと、安全であることは別です。この記事でここまで挙げてきた事故は、飼い主が自分でやる場合にもそのまま当てはまります。下顎骨の骨折も、歯の破折も、破折したスケーラー先端の誤飲も、器具と動く犬の組み合わせから生まれます。ヒトの歯科医師が自分の愛犬で断念した記録は、まさにこのケースにあたります。
じゃあ、家では何をすればいい?
歯ブラシを持つことです。そしてこれは、法律の側からも認められています。
先ほどの農林水産省のQ&Aは、スケーラーによる歯石除去を診療行為だと示したのと同じ回答のなかで、もう一本の線を引いています。
なお、歯垢を除去する目的でブラシやガーゼ等を用いる歯磨きは一般的に診療行為ではありませんが、口腔内に傷がある等の場合は獣医師にご相談ください。(農林水産省「小動物獣医療等に関するよくある質問」問3)
ここで、この記事の最初に戻ります。日本小動物歯科研究会が言っていたのは、歯周炎の原因は歯石ではなく歯垢だ、ということでした。
行政が「飼い主がやってよい」と線を引いた側こそが、病気の原因に直接届く方法だということです。法律の線引きと、病気の仕組みの線引きが、同じ場所に引かれています。
日本小動物歯科研究会の資料も、家庭でも歯みがきができるように指導すべきであり、病院での痛みを伴う口腔内への行為はできる限り避けるべきだと述べています。AVDC も、幼いうちからの毎日の家庭ケアを推奨しています。
もうひとつ、無麻酔の処置には見過ごせない副作用があります。先ほどの事故の内訳で2番目に多かった項目は「口周囲を触らせなくなった・歯周病確認の遅れ」で、23件でした。同研究会の資料にも、病院ではじっとしていても家庭では言うことを聞いてくれず口も触れないという声をよく聞く、と書かれています。
歯石を取ってもらった結果、毎日の歯磨きができなくなる。歯周病の原因に届く唯一の方法を失うことになります。
具体的な歯磨きの始め方と続け方は、犬の口臭と歯周病の記事にまとめました。段階を踏んだ慣らし方と、うまくいかない日の代替ケアも書いています。
SiPPO Friendsの活用
麻酔下の処置を受けたら、通院記録に残しておくと次に生きます。処置日、麻酔前検査で何を見たか、術後にどんな注意を受けたか。CEPSAF の47%という数字を踏まえると、帰宅後の様子をメモしておくことにも意味があります。
毎日の歯磨きは、デイリーケアの記録に。続いている日と抜けた日の両方が見えると、月に何回できたかが分かります。完璧を目指すより、ゼロの日を減らすほうが現実的です。月1回の体型チェックを習慣にしている話は犬のBCS完全ガイドに書きましたが、口の中も同じで、見る日を決めてしまうほうが続きます。
まとめ
麻酔を怖いと思わなかった側の飼い主として調べてみて、分かったのはこういうことでした。
- 無麻酔の歯石除去は、AVDC・WSAVA・AAHA・日本小動物歯科研究会が揃って否定している。
- 縁下に器具が届かず、舌側は見えず、口腔内レントゲンも撮れない。
- 見た目が正常な犬の歯の28%に、レントゲンで臨床的に重要な所見がある(AAHA)。
- 日本では97施設から、歯科領域106件・歯科以外26件の有害事象が報告されている。処置中または翌日の死亡も3件。
- 健康な犬の麻酔関連死は0.05%(CEPSAF、2002〜2004年の英国データ)。死亡の47%は麻酔中ではなく術後。
- 鎮静が全身麻酔より安全とは限らない。気道が保護されない(WSAVA)。
- 歯石を取っても歯周病は予防できない。原因は歯垢(日本小動物歯科研究会)。
- スケーラーによる歯石除去は診療行為、ブラシやガーゼの歯磨きは一般的に診療行為ではない(農林水産省)。
茶々丸の歯石は、まだ取るほどではないそうです。ただ AAHA の基準で読むと、最初の1回の目安の年齢は、もう過ぎています。次の受診で、どちらの考え方で見ているのかを聞いてみるつもりです。
その日まで、そしてその日のあとも、家でできることは夜の歯磨きだけです。正直に書くと、時々忘れます。それでも、歯ぐきが赤くなる日を少しでも遠ざけられるなら、続ける価値はあると思っています。
よくある質問
- 犬の無麻酔歯石除去はなぜ勧められないのですか?
- 歯周病が進むのは歯ぐきの下ですが、麻酔をかけていない犬では全部の歯の歯ぐきの下に器具を届かせることができません。米国獣医歯科学会(AVDC)は、見えている面の歯石を取る効果について、純粋に見た目だけのものだと述べています。WSAVAはさらに踏み込み、無効なだけでなく病態を隠して適切な治療を遅らせると指摘しています。
- 犬の全身麻酔で死亡する確率はどれくらいですか?
- 英国の117施設で犬98,036頭を追跡したCEPSAF研究(Brodbeltら2008年)では、健康な犬の麻酔・鎮静関連死は0.05%、1,849頭に1頭でした。全体では0.17%です。ただしこれは2002年から2004年の英国のデータで、日本の現在の数値ではありません。持病のある犬では1.33%と大きく上がります。
- トリマーやサロンが歯石を取るのは違法なのですか?
- 農林水産省は公式のQ&Aで、スケーラーを用いる歯石除去は獣医師の獣医学的判断及び技術をもって行う診療行為だと示しています。獣医師法17条は獣医師でない者が犬の診療を業務とすることを禁じ、27条は違反に2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金を定めています。ジャパンケネルクラブも違法となる可能性があると注意を呼びかけています。
- 家で歯磨きをするのは問題ないのですか?
- 問題ありません。同じ農林水産省のQ&Aが、歯垢を除去する目的でブラシやガーゼ等を用いる歯磨きは一般的に診療行為ではないと明記しています。ただし口の中に傷がある場合は獣医師に相談するようにという但し書きがついています。
- 歯石を取れば歯周病は防げますか?
- 防げません。日本小動物歯科研究会は、歯石は歯周炎の直接的な原因ではないため、歯石をとっても歯周炎を予防したことにも治療したことにもならないと述べています。歯周炎の原因は歯垢です。予防の主役は歯石を取ることではなく、歯垢を毎日落とすことになります。
出典・参考文献
- American Veterinary Dental College® Position Statement on Anesthesia-Free Dentistry (AFD) — American Veterinary Dental College(2024年4月 理事会採択)
- WSAVA Global Dental Guidelines(全文 PDF) — World Small Animal Veterinary Association (Niemiec et al., 2020)
- 2019 AAHA Dental Care Guidelines for Dogs and Cats — Journal of the American Animal Hospital Association (Bellows et al., 2019;55(2))
- The risk of death: the Confidential Enquiry into Perioperative Small Animal Fatalities — Veterinary Anaesthesia and Analgesia (Brodbelt et al., 2008;35:365-373)
- 無麻酔で歯石をとる?! — 日本小動物歯科研究会
- 無麻酔での歯垢・歯石除去とデンタルケアを目的とした製品による歯の併発症に関するアンケート結果 — MVM Vol.29 No.191(本田洋・本田動物病院、2020年、pp.15-19)
- 無麻酔下での歯石除去の問題点 — 日本小動物歯科研究会(深川雅彦・深川歯科、2012年9月)
- 小動物獣医療等に関するよくある質問 — 農林水産省
- 獣医師法(昭和二十四年法律第百八十六号) — e-Gov 法令検索(デジタル庁)
- 【注意】獣医師以外による無麻酔歯石除去について — 一般社団法人ジャパンケネルクラブ(2024年3月公開)
愛犬の毎日を、記録に残しませんか
散歩のルートも、体重や通院のメモも、気づいた体の変化も。SiPPO Friends はすべての機能を無料で使えます。

SiPPO Friends 編集部
犬の飼い主のための情報を、海外の獣医学研究や公的機関の資料をもとにお届けします。


