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犬の医療費は年間いくら?平均ではなく中央値で見る年齢別の相場

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ベージュのソファの上で、緑と白のストライプの服を着て前足を伸ばして伏せているキャバプーの茶々丸

茶々丸(キャバプーの女の子)を迎えてから、いちばん最初に「これは思ったより高いな」と感じた支払いは、動物病院の会計ではありませんでした。ドッグフードです。健康のことを考え出すと際限がなくなって、気がつけば 3kg で 6,000 円くらいのものを買っていました。私が自分用に買う鶏むね肉より、明らかに単価が高い。この家でいちばんいいものを食べているのは私ではないな、と理解した瞬間でした。

医療費のほうは、いまのところ身構えていたほどではありません。ただ、それは茶々丸がまだ若いからです。この先いくらかかるのかを調べると、たいてい「平均○万円」という数字にたどり着きます。ところが、それがどんな犬の、どんな条件で集めた数字なのかまで書いてある記事は見つかりませんでした。そこで、アニコム損保の白書と日本獣医師会の実態調査、それに総務省の物価統計を直接開いて整理しました。

先に結論を書くと、犬の年間診療費の中央値は 0〜4歳で 21,860 円、10歳以上で 99,346 円です(アニコム損保 家庭どうぶつ白書2025)。 同じ 10歳以上を平均値で見ると 172,742 円で、中央値との開きは 1.7 倍あります。家計の見積もりに使うなら、中央値のほうが実感に近い数字です。

免責: 本記事は公表された統計資料を整理した一般的な情報提供であり、個別の診療費を保証するものではありません。実際の金額は病院・地域・症状によって大きく異なります。また、ペット保険への加入可否や積立額についての助言を目的とするものでもありません。治療方針や費用については、かかりつけの獣医師に直接ご確認ください。

犬の医療費は年間いくらかかりますか?

年齢を分けずにひとつの数字で答えるのは無理があります。それでも目安を出すなら、アニコム損保の『家庭どうぶつ白書2025』にある年齢帯別の年間診療費が使えます。80 万頭を超える契約データの集計です。

年齢帯平均値中央値
0〜4歳52,613円21,860円
5〜9歳88,362円39,358円
10歳以上172,742円99,346円

対象は 2023年4月1日から2024年3月31日までにアニコム損保の保険契約を開始した犬 801,127 頭(0〜15歳)で、通院・入院・手術を含みます。16歳以上は集計に含まれていません。

ただ、この数字を自分の家計に当てはめる前に、知っておいたほうがいいことが三つあります。

ひとつめは、集計対象がペット保険の契約者の犬だということ。保険に入る飼い主が医療にどれだけお金をかけるかは、入っていない飼い主と同じとは限りません。

ふたつめは、白書の説明にある「各疾患で請求のあった個体の診療費を集計した」という条件です。つまりこれは、その年に保険金の請求があった犬の数字です。1年間まったく病院に行かなかった犬は当然入りませんが、それだけではありません。アニコム損保は狂犬病予防接種・ワクチン・フィラリア予防などの予防処置と、予防目的のみで受診したときの初診料・再診料を補償の対象外と明示しています。つまり予防のために通っただけの犬も、この数字には現れません。

みっつめが、いちばん見落とされやすいところです。白書は集計方法の説明で、こう明記しています。

一度の請求において複数の傷病に対する請求が行われていた場合、その請求は年間診療費(平均値・中央値)の集計対象からは除外するものとして(ただし集計対象から除外したことで請求頭数が0頭になった場合には、集計対象に含めるものとして)算出した。

— アニコム損害保険『家庭どうぶつ白書2025』

ひとつの会計で複数の傷病をまとめて請求した分が、この表から落ちているということです。表の数字は、上限ではありません。

平均と中央値では、どちらを目安にすべきですか?

家計の見積もりに使うなら中央値です。理由は、上の表の 10歳以上の行を見れば分かります。平均 172,742 円に対して中央値 99,346 円。同じ集団を数えていて、7万円以上ずれています。

平均値は、一部の高額な症例に引っ張られます。何十万円もかかった犬がまとまった数いれば、それだけで平均は押し上げられる。一方の中央値は、金額順に並べてちょうど真ん中に来る犬の額です。「うちの子が真ん中くらいだったらいくらか」を知りたいときに使う数字は、こちらです。

この開きは、年代によって形が変わります。0〜4歳では平均が中央値の 2.4 倍、10歳以上では 1.7 倍。倍率でいえば若い時期のほうが大きく、金額の差でいえば高齢期のほうが大きい。どちらの年代でも、平均だけを見て「うちは足りていない」と焦る必要はありません。

医療費は犬の年齢でどれくらい変わりますか?

はっきり変わります。同じ白書には 1 歳刻みのデータもあって、こちらのほうが自分の犬に当てはめやすいはずです。ひとつ断っておくと、この表と上の年齢帯別の表は、単純には接続しません。年齢帯別の 0〜4歳は平均 52,613 円ですが、1歳刻みで見ると同じ年代のどの歳も 54,106 円以上あります。帯の平均が、その中のどの歳の平均より低いことになる。両方とも対象は 801,127 頭と書かれているので、集計の当て方が表によって違うのだと思われますが、白書に説明はありません。2つの表を足したり引いたりせず、それぞれ別の見方として読むのが安全です。

年齢平均値中央値
0歳63,014円26,499円
1歳54,106円23,400円
2歳58,064円25,300円
3歳65,101円28,380円
4歳74,260円32,126円
5歳82,886円37,895円
6歳93,559円44,880円
7歳105,442円51,876円
8歳122,810円62,680円
9歳146,671円79,038円
10歳170,741円97,144円
11歳197,536円118,590円
12歳216,947円136,283円
13歳234,401円155,692円
14歳250,724円170,300円
15歳261,239円178,490円

最も低いのは 1歳の平均 54,106 円で、15歳の 261,239 円はその 4.8 倍です。中央値どうしで比べると 23,400 円と 178,490 円で、7.6 倍になります(いずれも白書の数値からの単純計算です)。

注目すべきは倍率そのものより、上がり方の形です。1歳ごとの増え方は、年齢とともにおおむね大きくなっていきます。ただ、どこまでも加速するわけではありません。平均値の伸びがいちばん急なのは 10歳から 11歳にかけてで、1年で 26,795 円増えます。そこから先はむしろ緩やかになり、14歳から 15歳では 10,515 円です。中央値でも同じ形で、ピークは 10歳から 11歳の 21,446 円です。増え方の山は 10代の前半に来ます。

ひとつだけ形から外れているのが 0歳で、平均 63,014 円と 1歳や 2歳より高く、3歳とほぼ同じ水準にあります。理由は白書に書かれていないので、ここでは事実として置いておきます。

そして、この後半が長くなっています。同じ白書によると、犬の平均寿命は 2008年度の 13.2 歳から 2023年度の 14.1 歳になりました。ただし右肩上がりが続いているわけではなく、2017年度に 14.0 歳へ届いたあとは 14.0〜14.2 歳の範囲で推移しています。直近の 2021年度と 2022年度は 14.2 歳で、2023年度は 14.1 歳とわずかに下がりました。

寿命が延びるということは、医療費が急に増える時期を何年ぶん引き受けるか、という話でもあります。愛犬に長く健康でいてもらうための習慣については、愛犬の寿命を延ばす5つの習慣にまとめました。

動物病院の料金はどうやって決まっていますか?

病院ごとに、自由に決められています。日本獣医師会は、その理由をこう説明しています。

獣医師の診療料金は、独占禁止法により、獣医師団体(獣医師会等)が基準料金を決めたり、獣医師同士が協定して料金を設定したりすることが禁じられています。

— 公益社団法人 日本獣医師会

人間の健康保険のような公定価格が存在しないので、同じ処置でも病院によって金額が違います。そのうえで同会は、料金の実態を把握するための調査を実施しています。最新のものは令和3年(2021年)8月から10月にかけて行われた第4回調査で、全国 1,096 件の回答を集めたものです。

そこで報告されている中央値を、いくつか挙げます。

項目中央値
初診料1,500円
再診料750円
犬混合ワクチン(5種・6種)6,250円
狂犬病予防接種4,000円
全身麻酔11,250円
犬避妊(卵巣子宮切除)※麻酔料除く27,500円

最後の行に付いている但し書きが、この調査でいちばん大事なところです。同会自身が、こう注意を促しています。

本調査結果では、診療項目を細かく分けて示してあります。このため、飼い主の方が実際に支払う診療料金は、それぞれの項目の金額を全て合算した金額になりますのでご注意ください。

— 公益社団法人 日本獣医師会

避妊手術の 27,500 円は、麻酔料を含みません。全身麻酔の中央値 11,250 円は別項目です。ここに初診料や術前の血液検査、入院料、術後の投薬といった項目が積み上がっていきます。「避妊手術は約2.7万円」と覚えて病院に行くと、会計で足りなくなると思っておいたほうがいいでしょう。

回答の分布を見ると、もうひとつ分かることがあります。避妊手術で最も多かった回答は 30,000〜40,000円未満で 31.0%(340件)、次が 25,000〜30,000円未満で 25.3%(277件)でした。中央値は 27,500 円ですが、いちばんよくある価格帯はその上です。

さらに同じ調査で、犬の避妊手術(卵巣子宮切除)に体重別の料金設定がある施設は 86.1% でした。9kg の茶々丸と、3kg のチワワと、25kg のラブラドールでは、同じ手術でも金額が違います。結局のところ、自分の犬の金額は自分の病院で聞くしかありません。

私自身は、茶々丸の避妊手術のとき、事前に聞いていた金額と最終的な会計が一致していました。上に並べた項目の多さを知ったいまになって、あれは説明する側がきちんと足し上げてくれていたのだな、と思います。もっとも、私はそれ以外の診察で金額を聞いたことが一度もありません。合算の仕組みを知らないまま、聞かずに済んでいただけでした。避妊手術のあとに体や行動がどう変わるかについては、避妊・去勢の『あと』に何が変わるのかで整理しています。

なお、この調査が実施されたのは令和3年です。同会は概要で、初診料の中央値が平成27年の 1,386 円から令和3年の 1,500 円に、健康診断(1日ドック)が 14,021 円から 16,250 円に上がったと報告しています。今の水準はここからさらに動いている可能性があります。

高額になりやすいのは、どんな場面ですか?

金額は病院や地域、症状の重さで大きく変わるので、いくらかかると断定はできません。そのうえで、どんな傷病にどれくらいの請求が起きているかは、白書の好発疾患別データから読み取れます。10歳以上の犬で請求割合が高かった傷病の上位10件は、次のとおりです。なおこの図の対象は、全年齢の犬 815,512 頭(性別不明を除く)で、さきほどの年齢帯別の表の 801,127 頭とは集計対象が違います。

傷病名平均値中央値請求割合
嘔吐 / 下痢 / 血便(原因未定)30,376円13,409円13.1%
弁膜症156,244円101,981円8.8%
胃炎 / 胃腸炎 / 腸炎33,425円14,663円8.6%
外耳炎(原因未定)28,936円14,080円5.8%
歯周病 / 歯肉炎(乳歯遺残に起因するもの含む)66,372円48,358円5.5%
元気喪失(食欲不振含む、原因未定)40,156円19,360円4.4%
歩行異常 / 跛行 / 四肢の痛み(原因未定)26,644円10,978円4.3%
膿皮症 / 細菌性皮膚炎42,035円16,610円3.5%
膀胱炎33,331円16,900円2.8%
胆泥症104,598円63,118円2.8%

ひとつ補足しておくと、ここでいう請求割合は、白書の定義では保険金支払いのあった頭数を契約している頭数で割った値です。病気が起きた割合ではなく、保険金の請求が起きた割合です。そのうえでこの表の読みどころは、請求の多さと金額の大きさが対応していないところにあります。いちばん多い嘔吐・下痢・血便は 10歳以上の 13.1% で請求が発生していますが、中央値は 13,409 円にとどまります。 金額が飛び抜けている弁膜症は中央値 101,981 円ですが、請求割合は 8.8% で堂々の2位。およそ11頭に1頭で請求が起きており、稀な病気ではありません。逆に、いちばん請求割合の低い側にある胆泥症(2.8%)も中央値 63,118 円と高い。10件のうち中央値が5万円を超えるのは弁膜症と胆泥症の2件で、歯周病の 48,358 円がそれに次ぎます。残る7件はすべて2万円以下です。よく起きるものが安いとも、高額なものが稀だとも言えません。

同じ白書の別の集計に、診療費全体を病気の種類で割った内訳もあります。こちらの対象は、さきほどの年齢帯別の表と同じ 801,127 頭です。最も大きいのは皮膚疾患の 16.7%、次いで消化器疾患 12.1%、肝・胆道系および膵の疾患 8.9%、筋骨格疾患 8.7%、循環器疾患 8.5% でした。上位に来ているのは、一度の処置で終わるとは限らない領域のように見えます。ただしこの内訳は器官系による分類で、急性か慢性か、手術を伴うかどうかまでは区別していません。

このことは、実感としてもよく分かります。茶々丸がマラセチアで通ったとき、負担だったのは 1 回ごとの会計ではありませんでした。今日で終わりではない、と分かったことのほうです。獣医師から毎日洗うように言われたときも、金額とは別の意味でこたえました。皮膚のトラブルが慢性化したときに何が起きるかは、犬のアトピー性皮膚炎の治療薬を比較でも触れています。

歯周病の行にも触れておきます。10歳以上で中央値 48,358 円、5〜9歳でも平均 64,357 円・中央値 52,965 円と、5〜9歳の時点ですでに高い水準です。この年代の請求割合は 4.7% です。毎日の歯みがきが面倒なのは私も同じですが、シニアに入る前からこの金額が動いていることは、知っておいて損はないと思います(犬の口臭と歯周病)。

値上がりしているのは、本当に医療費ですか?

ここで、冒頭のドッグフードの話に戻ります。

総務省統計局の消費者物価指数には、「獣医代」という品目があります。ペット関連では他にドッグフード、キャットフード、ペットトイレ用品、ペット美容院代も調査対象です。2020年を 100 として、犬に関わるものの年平均を並べるとこうなります。

品目2015年2020年2025年
総合98.2100.0111.9
獣医代97.6100.0102.4
ペット美容院代93.4100.0111.8
ペットフード(ドッグフード)88.6100.0130.1

物価全体が 11.9% 上がった 5 年間で、獣医代は 2.4% しか動いていません。一方でドッグフードは 30.1%、ペット美容院代は 11.8% 上がりました。私が鶏むね肉より高いフードに驚いたのは、気のせいではなかったわけです。

ただし、この表を見て「動物病院の料金は上がっていない」と結論するのは間違いです。統計局は毎月、どの品目で何の価格を調べているかを銘柄まで公表しています。その表から獣医代の行を取り出して並べると、こうです。

9396/獣医代/狂犬病予防接種料,注射済票交付手数料は除く/1回

— 総務省統計局「小売物価統計調査(動向編)調査品目及び基本銘柄」

この品目が毎月追いかけているのは、狂犬病予防接種 1 回分の料金です。注射済票の交付手数料は含みません。初診料も、血液検査も、手術も、この指数には入っていないということです。

さきほど並べた日本獣医師会の中央値の表にも、狂犬病予防接種 4,000 円という行がありました。国の物価統計が毎月見ているのは、あの表でいえばその1行に当たる項目だけ、ということになります。ただし獣医師会側の項目に注射済票の交付手数料が含まれるかどうかは公表資料から読み取れないので、2つの金額をそのまま比べることはできません。

そして狂犬病の予防接種は、狂犬病予防法の第五条が飼い主に義務づけているものです。同条は、犬の所有者は狂犬病の予防注射を毎年一回受けさせなければならないと定め、その注射を受けた犬の所有者には、市町村長が注射済票を交付すると続きます。銘柄の但し書きが外している注射済票の交付手数料は、この市町村長が交付するぶんのことです。 さらに厚生労働省が2025年11月の厚生科学審議会感染症部会に出した資料によると、アンケートに回答した自治体のうち9割以上が集合注射を行っています。義務で、毎年で、多くの地域に自治体経由の接種機会がある。値段が動きにくい条件が並んでいる項目だと言えそうです。獣医代の指数がほとんど動いていないことも、その意味では意外ではありません。

つまり「獣医代 102.4」は、動物病院の料金が据え置かれていることの証拠にはなりません。消費者物価指数には、犬の診療費の水準を測る仕組みが、いまのところ事実上ないということです。私も調べ始めたときは、この数字だけで「医療費はそれほど上がっていない」と書くつもりでいました。

支払う側の数字も見ておきます。アニコム損保が契約者を対象に行った 2025年の支出調査(有効回答 5,494)では、犬 1 頭あたりの年間支出総額は 413,416 円で前年比 99.8% でした。総額はほぼ横ばいです。ところがこのうち治療費として挙げられた金額は 89,120 円で、前年比 110.9%。総額が横ばいのなかで、1 年に 1 割増えています。なお同じリリースは、飼育に伴って増えるぶんの光熱費 22,273 円(前年比 105.4%)も増加した項目として挙げています。

ただし、こちらも相場の変化を示すものではありません。回答者は全員ペット保険の契約者で、有効回答は前年の 4,137 から 5,494 に増えています。同じ人が毎年答えているとは限りませんし、回答した犬の年齢構成も公表されていません。そもそも「治療費」が保険で戻る前の総額なのか自己負担分なのかが、公表された文面からは読み取れないままです。単価が上がったのか、受診が増えたのか、回答した人の顔ぶれが変わったのか。この数字だけでは切り分けられません。

補足をひとつ。総務省統計局は 2025年基準の改定で、新しく「ペット保険料」を消費者物価指数の調査品目に加えました。品目数は 582 から 589 に増え、ペット保険料は獣医代・ペット美容院代と同じ分類に並んでいます。獣医代やドッグフードは以前から調査されていた品目なので、新しく数えられるようになったのはペット保険料のほうです。

月いくら積み立てればいいのでしょうか?

正解はありません。ここで出せるのは、上の数字を機械的に 12 で割った目安だけです。以下はすべて白書の値からの単純計算で、実測された積立額ではありません。

年齢帯中央値ベース平均値ベース
0〜4歳月 約1,800円月 約4,400円
5〜9歳月 約3,300円月 約7,400円
10歳以上月 約8,300円月 約14,400円

中央値を採るか平均値を採るかで、必要額は倍以上変わります。どちらが正しいという話ではなく、どちらの世界に備えるかという選択です。

はっきりしているのは、支出の形と積立の形が違うということです。医療費は後半に集中しますが、積立は早く始めたほうが総額を稼げます。若いうちに実際の支出より多めに積んでおいて、10歳以降に取り崩す。そうすると月々の負担は平らに近づきます。

正直に書くと、私はその積立をしていません。

代わりにペット保険に入っています。損得を計算して決めたわけではありませんでした。入っていなかったら、ちょっとした異変で病院に行くのを渋りそうだと思ったからです。そして渋った結果、手遅れになるのが怖かった。実際、保険に入っているという理由で、私は病院に行きやすくなりました。もちろん無駄に行きたいわけではありませんが、迷う時間が短くなったのは確かです。

これは費用を抑える判断ではありません。むしろ受診の回数は増える方向でしょう。先ほどのアニコムの支出調査は、回答者が全員ペット保険の契約者でした。治療費が 1 年で 1 割増えたというあの数字のなかには、私のように、保険を理由として病院に行きやすくなった人がいくらか混じっているのだと思います。

だからこそ、保険に入るべきかどうかはこの記事では判断しません。保険料も補償内容も商品ごとに違いますし、家計の状況によって答えが変わるからです。ここで並べたのは、判断に使える数字までです。

まとめ

  • 年齢帯で分けて見る。全年齢を均した平均は、若い犬にも高齢犬にも当てはまらない
  • 家計の起点には平均ではなく中央値を使う。10歳以上では 1.7 倍ずれる
  • 病院ごとに料金は違う。総額は項目の合計で、麻酔料や検査料が別建てになっている前提で見積もる
  • 請求が多い病気と、金額が大きい病気は一致しない。10歳以上でいちばん多い嘔吐・下痢・血便は中央値 13,409 円、金額の大きい弁膜症は 101,981 円で請求割合 8.8%
  • 物価統計の「獣医代」は狂犬病予防接種1回分の価格(注射済票の交付手数料は除く)。動物病院の料金全体が上がっていないことの証拠には使えない
  • 積立額に正解はない。若いうちに多めに積んで後半で取り崩す形が、負担を平らにする

最後にひとつだけ。この記事に並べたのは全国の統計で、自分の家の数字ではありません。うちがいくらかかっているかは、結局のところ記録しないと分かりません。SiPPO Friends の通院記録は、受診した日と内容のほかに、その日の会計と保険で戻った分を一緒に残せます(1回ごとの記録で、年間の合計を自動で出す機能はありません)。体重記録とあわせて無料で使えます。記録したところで診療費が下がるわけではありませんが、同じ金額を払うなら、手元に残るものは多いほうがいいはずです。

よくある質問

犬の医療費は年間いくらくらいかかりますか?
年齢で大きく変わります。アニコム損保の家庭どうぶつ白書2025では、犬の年間診療費の中央値は0〜4歳で21,860円、5〜9歳で39,358円、10歳以上で99,346円でした。ただしこれは、ペット保険の契約者の犬のうち、その年に保険金の請求があった個体だけを集計した数字です。病院にかからなかった犬に加えて、ワクチンなど予防だけで通った犬も含まれていません。予防処置は保険の補償対象外で、請求が発生しないためです。
犬の医療費は平均と中央値のどちらを目安にすればいいですか?
家計の見積もりには中央値のほうが向いています。アニコム損保の家庭どうぶつ白書2025では、10歳以上の年間診療費が平均172,742円に対して中央値99,346円で、1.7倍の開きがあります。平均値は少数の高額な症例に引き上げられるため、多くの家庭の実感からは離れた数字になります。
犬の避妊手術は27,500円と聞きましたが、その金額で足りますか?
足りないと考えておくほうが安全です。日本獣医師会の令和3年調査で犬の避妊手術(卵巣子宮切除)の中央値が27,500円とされていますが、これは麻酔料を除いた金額です。同じ調査で全身麻酔の中央値は別項目の11,250円で、ここに初診料や術前検査、入院料が加わります。同会も、飼い主が実際に支払う金額は各項目を合算したものになると注意を促しています。
動物病院の料金はどこも同じですか?
同じではありません。日本獣医師会は、獣医師の診療料金について、独占禁止法により獣医師団体が基準料金を決めたり獣医師同士が協定して料金を設定したりすることが禁じられていると説明しています。同会の令和3年調査では、犬の避妊手術(卵巣子宮切除)に体重別の料金設定がある施設が86.1%でした。金額は通っている病院に確認するのが確実です。
犬の医療費は値上がりしていますか?
消費者物価指数では判断できません。総務省統計局の消費者物価指数に獣医代という品目はあり、2020年を100として2025年平均は102.4にとどまります。ただし同局が公表する基本銘柄によると、この品目が調べているのは狂犬病予防接種1回分の料金で、初診料も検査も手術も含みません。獣医代の指数が動いていないことは、動物病院の料金が据え置かれている証拠にはなりません。

出典・参考文献

  1. アニコム 家庭どうぶつ白書2025 第2部 どうぶつの疾患統計アニコム損害保険株式会社(2025年12月発行)
  2. 家庭飼育動物(犬・猫)の診療料金実態調査 調査結果(令和3年調査)公益社団法人 日本獣医師会(令和5年9月公表)
  3. 小動物診療料金について公益社団法人 日本獣医師会
  4. 2020年基準 消費者物価指数 長期時系列データ 品目別価格指数 全国 月次総務省統計局
  5. 2020年基準消費者物価指数品目情報一覧総務省統計局
  6. 消費者物価指数2025年基準改定計画総務省統計局(令和7年11月14日)
  7. 2025最新版 ペットにかける年間支出調査アニコム損害保険株式会社(2026年3月11日)
  8. 小売物価統計調査(動向編)調査の結果 — 調査品目及び基本銘柄総務省統計局
  9. 混合ワクチンやフィラリアの予防薬等予防処置は補償対象ですか?アニコム損害保険株式会社
  10. 狂犬病予防法(昭和二十五年法律第二百四十七号)第五条e-Gov 法令検索(デジタル庁)
  11. 狂犬病予防法に基づく予防注射時期の見直しについて(第100回厚生科学審議会感染症部会 資料1)厚生労働省 健康・生活衛生局 感染症対策部 感染症対策課(2025年11月14日)

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SiPPO Friends 編集部

SiPPO Friends 編集部

犬の飼い主のための情報を、海外の獣医学研究や公的機関の資料をもとにお届けします。

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