犬の睡眠時間は12〜14時間?脳波の実測では、眠っているのは1日の35%だった

茶々丸(キャバプー・9kg)は1日どれくらい寝ているのだろうと考えて、私はずっと14時間くらいだと思っていました。迎えてから2年、リモートワークで日中もだいたい同じ部屋にいるので、寝ている姿はよく見ています。足元で寝て、起きて一人で遊んで、また寝る。ネットで見かける「犬は12〜14時間眠る」という数字とも合っています。
ところが一次資料に当たると、この数字は思ったほど単純ではありませんでした。
健常なポインター6頭を24時間の脳波で記録した Lucas らの研究では、はっきり眠っている時間は全体の35%で、残りは覚醒44%とうとうとした状態21%でした(Physiology & Behavior, 1977)。 24時間の35%は約8時間半です。12〜14時間という数字は、この「うとうと」を含めて数えたときの姿に近いものでした。
犬が何時間眠るかは、時計ではなく定義の問題だった。この記事では、脳波・ビデオ観察・活動量計という3種類の実測が犬の眠りをどう捉えたかを追いかけ、最後に「寝すぎ」「眠らない」で受診を考える線引きまで整理します。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、獣医師の診断に代わるものではありません。 愛犬の睡眠に気になる変化があるときは、かかりつけの獣医師にご相談ください。
犬は1日に何時間眠るの?「12〜14時間」を実測で数え直す
答えは「何を睡眠に数えるか」で変わります。
いちばん厳密な測り方は、人の睡眠検査と同じように脳波を取ることです。Lucas らは1977年、健常なポインター6頭を実験室で24時間記録し、覚醒とうとうと、徐波睡眠とレム睡眠の4つに分けました。結果は覚醒44%、うとうと21%、徐波睡眠23%、レム睡眠12%。眠っているのは徐波睡眠とレム睡眠を足した35%で、時間にすると8時間24分ほどになります(35%を24時間にかけた私の計算です)。ここにうとうとの21%を足すと56%、13時間26分になります。よく見る「12〜14時間」の正体は、この足し算だと考えるときれいに説明がつきます。
飼い主から見た数字も出ています。英国の Generation Pup コホートでは、16週齢2,332頭と12ヶ月齢1,091頭の飼い主に睡眠を尋ねました。両方の時点で昼と夜の睡眠を回答した犬では、24時間あたりの総睡眠が16週齢で平均11.2時間、12ヶ月齢で平均10.8時間でした(Animals, 2020)。夜だけを見ると7.0時間から7.3時間へ、昼寝は中央値3.5時間から3.0時間へと、成長にともなって夜にまとまっていきます。集計に使われた頭数は項目ごとに違い、いずれも両方の時点で回答が揃った犬に限った数字です。
つまり手元にある数字は、測り方によって8時間半にも11時間にも13時間半にもなります。どれかが嘘というわけではなく、脳波が捉えた「眠り」と、飼い主が見て「寝ている」と思う状態が別物なだけです。私が14時間だと思っていたのは、たぶんうとうとしている茶々丸まで睡眠に数えていたからです。
飼い主にとって実用的なのは平均値ではなく、その子のいつもです。同じ犬の先週と今週を比べられるのは、研究者ではなく毎日そばにいる人だけです。
犬の眠りはなぜ細切れなの?夜8時間で23回起きている
犬は人のようにまとめて眠りません。
Adams と Johnson は1993年、都市部のさまざまな環境で暮らす犬24頭の夜を観察し、うち18頭を赤色光の下でビデオ撮影しました。夜8時間のあいだに睡眠と覚醒のエピソードは平均23回。周期は平均して16分眠って5分起きる、というものでした(Applied Animal Behaviour Science, 1993)。夜中に何度も目を覚まし、また眠る。それが犬の普通の夜です。
Lucas らの脳波記録でも、睡眠覚醒の周期は平均83分、レム睡眠のエピソードは平均6分と短く、1回の睡眠エピソードは平均45分でした。人のようにまとまった夜をひと続きで過ごすのではなく、短い眠りを何度も積み重ねるかたちです。総説をまとめた Bódizs らは、犬のウルトラディアン睡眠周期を約20分としています(Current Opinion in Behavioral Sciences, 2020)。内訳はうとうとと NREM が12分、レムが6分で、ラットの11分とヒトの90分のあいだにあたります。覚醒を含めた多相性の睡眠覚醒周期のほうは、平均83分です。同じ総説は、イヌ科の多くが夜行性か薄明薄暮性か不規則な活動を示すのに対して家庭犬が昼行性であることを、人への適応を反映したものと仮説されている、としています。
日本語の記事では「犬の睡眠はレム睡眠が80%」という説明を見かけます。今回調べた範囲で、この数字を支持する一次資料は見つかりませんでした。Lucas らの実測は24時間の12%です。
ただし、犬のレム睡眠が少ないという意味ではありません。Bódizs らの総説は、1日あたりのレム睡眠量を犬で推定2.9時間、ヒトで1.9時間、ラットで2.4時間としています。犬のレムはヒトより長い。誤っているのは量ではなく、80%という割合のほうです。
活動量計を使った研究もあります。Woods らは健康な成犬42頭(平均5.5±2.3歳、2〜9歳)に活動モニターを14日間つけ、活動が朝と夕方の二峰性になることを示しました。ピークはおよそ7時と19時、谷は正午ごろです(Scientific Reports, 2020)。興味深いのは、昼の谷が夜(23時〜6時)ほどは低くならないこと。昼の犬は、夜ほど静かにはなっていません。
ただしこの手法には限界があります。活動量計が測るのは動きの少なさであって、脳波が捉える睡眠そのものではありません。研究チーム自身も、動きがないからといってそれがつねに睡眠だったとは結論できない、と断っています。
この研究の犬たちは、飼い主が全員、日中の定時勤務をしている家庭の犬でした(うち2頭は飼い主の職場に同伴していました)。朝と夕方に活動が跳ねるのは、人が家にいる時間だからです。研究チームの Margaret Gruen は、ノースカロライナ州立大学のニュースリリースで、参加犬の多くが日中に外で働く人の家庭犬だったことに触れ、犬は人との関わりが起きる時間帯に最も活動的だったと述べています。うちのように日中も人がいる家では、この山と谷はもっとなだらかなのかもしれません。
犬と一緒に寝るのはあり?お互いに気づかず起こし合っている
これは私自身がいちばん知りたかった話でした。
うちでは犬用のベッド(正体は人間の赤ちゃん用です)を私のベッドの隣にくっつけて置いています。それでもたまに私のベッドのほうへ擦り寄ってきますし、夜中に前足でトントンして「横に寝らせて」と要求してくることもあります。これは睡眠を妨げられているのだろうか、と思って調べました。
数字の上では、妨げられています。Hoffman らは成人女性12人(平均50.8歳)と愛犬をアクチグラフで測り、1分ごとの動きを平均10晩、合計124晩・54,533件分記録しました。人と犬の動きには有意な正の関係があり、影響は犬から人への方向のほうが大きいという結果でした。犬の動きは人の動きの約半分に伴って現れ、犬が動くと人が静止状態から動き出す確率は3倍になりました(Animals, 2020)。
ただし同じ論文には、続きがあります。犬に睡眠を邪魔されたと参加者が記憶していたのは、124晩のうち22晩だけでした。その一方で、犬の動きが多かった夜は、本人がつけたその夜の睡眠の質の評価も低くなっていました。研究チームはこれを、眠りの悪かった夜を愛犬の夜間の動きと結びつけて意識できていない状態だと説明しています。
ただし論文は、この関連だけでは因果を結論できないとも断っています。夜のあいだ動いている時間は犬が平均12.4%、人が4.5%で、犬の夜間の動きの大半は同じベッドの人に悪影響を与えているようには見えない、というのが著者らの見方です。数字としてはっきりしているのは、犬の動きの直後に始まった人の動きが、そうでない場合より平均26秒長く続いたことでした。私が夜中のトントンを笑い話として書いていることも、たぶんこの範囲に収まります。
逆向きの報告もあります。さきほどの Adams と Johnson の夜間観察では、犬の飼い主14人のうち9人が、自分では気づかないまま愛犬の眠りを妨げていました。同じ研究では、2頭以上が一緒に寝ていた31回の観察で睡眠覚醒の周期が同期せず、強い刺激があったときだけ目覚めがそろったことも記録されています。ここで押さえておきたいのは、この1993年の研究でビデオ撮影された18頭が、屋外か実験施設で寝ていて、人と一緒に寝ていた犬は1頭もいなかったことです。Woods らは2020年の論文で、この研究の飼育環境が今のペット犬とは違うと指摘しています。つまり同じ布団どころか同じ部屋にいなくても、飼い主は気づかないうちに犬の眠りを削っていた。人と犬は、寝床を共有していてもいなくても、お互い気づかないまま干渉し合っています。
どちらが正しいという話ではありません。Generation Pup の調査では、12ヶ月齢の犬を人と同じ寝室で寝かせている飼い主は37.5%で、16週齢時点の29.8%から増えていました。人のいない部屋で寝かせる家庭は59.4%から53.6%へ減っています。1年のあいだに、けっこうな数の飼い主が折れているわけです。私もその一人です。
寝ながらのピクピク・寝言・いびきは大丈夫?
多くは正常な現象です。
眠っている犬の足がピクピク動く、小さく鳴く、口が動く。VCA Animal Hospitals の獣医師による解説では、犬は眠り始めておよそ20分で夢を見はじめ、それはレム睡眠中に起きるとされています。このとき呼吸は浅く不規則になり、筋肉がピクピク動くことがあります。
これがどのくらいありふれた光景かも、数字になっています。Generation Pup で12ヶ月齢時に回答のあった1,042頭では、飼い主が観察した睡眠中の様子として足の小さなピクピクした動きが73.0%で最多。よく夢を見ていると答えた飼い主が37.5%、何かを追いかけているように見えると答えたのが29.9%でした(Animals, 2020)。寝相の集計もあり、横に伸びて寝るが84.2%、丸まって寝るが63.6%、仰向けが40.2%です(複数回答)。
茶々丸はピクピクも寝言もいびきも全部あります。寝相もその日次第で、へそを出して伸びていることもあれば丸まっていることもある。仰向けが40.2%と知って、うちが特別に自由なわけではなかったと分かりました。
いびきについては、最初に見たとき私は少し心配しました。同じ調査では、よく大きないびきをかくと報告された犬は13.1%です。犬種別の内訳もあり、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルは25.0%(16頭中4頭)、パグとクランバースパニエルは調査対象の全頭、フレンチブルドッグは66.7%でした。茶々丸はキャバリアとトイプードルのミックスなので、いびきをかく側の血が半分入っています(キャバプーという犬種を985頭の研究から見た記事にも書きました)。
ただし、この表を読むときには論文自身が挙げている注意があります。短頭種気道閉塞症候群の啓発が進んだ結果、鼻の短い犬種の飼い主はいびきを報告しにくくなっている可能性がある、という指摘です。犬種ごとの頭数も多くありません。25%という数字は、キャバリア系は必ずいびきをかくという意味でも、いびきが正常だという意味でもありません。
いびきを軽く見ないほうがよい理由は、別の資料にあります。Bódizs らの総説は、睡眠時の呼吸障害について、イングリッシュブルドッグやキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルをはじめとする短頭種が最も多く影響を受けると記しています。血中酸素が下がるエピソードと大きないびきに加えて、日中の過度の眠気やだるさを伴うとされています。いびきそのものより、いびきと日中のぼんやりが揃うことのほうが、伝えるべき情報になります。
受診を考えるサインははっきりしています。同じ調査で、ときどき呼吸が止まると報告された犬は0.5%でした。まれですが、ゼロではありません。眠っているあいだに呼吸が止まる、いびきが急に大きくなった、寝ながら苦しそうにもがく。こうしたときは動画を撮って獣医師に見せてください。てんかん発作との区別も同じで、レム睡眠の動きは部分的で声をかければ止まり、起きたあとはいつも通りです。全身が硬直して呼びかけに反応しない、覚めたあともぼんやりしている場合は発作の可能性があります。
眠りは犬の記憶や気持ちとどう関係しているの?
眠りは体を休めるだけの時間ではありません。
Kis らは2017年、家庭犬15頭(平均3.67±1.91歳)に新しいコマンドを教えたあと3時間眠らせ、眠る前と後で課題の成績を比べました。成績は有意に向上しています(Scientific Reports, 2017)。人で知られている睡眠依存的な記憶の固定が、犬でも起きている可能性を示した報告です。
ただし、同じ論文の2つめの実験はもう少し込み入っています。学習後の1時間を、眠る・リードで散歩する・別の新しい課題を覚える・おもちゃで遊ぶの4条件に分けて53頭で比べたところ、1時間の睡眠では直後の成績が上がりませんでした。研究チームは、実験1との差を保持時間の長さ(3時間と1時間)で説明しています。おもちゃで遊んだ犬にいたっては、直後の成績がむしろ下がりました(研究チームは情動的な興奮の影響としています)。1週間後の成績は、眠った犬も散歩した犬も遊んだ犬も上がっています。上がらなかったのは、あいだに別の課題を覚えた犬だけでした。つまり寝かせれば伸びるという単純な話ではなく、覚えた直後に別の新しいことを詰め込むと定着が妨げられる、と読むのが正確です。
感情との関係はもっと意外でした。同じグループが同年に発表した別の実験では、家庭犬16頭に対して、なでる・ボールで遊ぶといった positive な体験と、分離・威嚇的な接近といった negative な体験を与え、そのあと3時間の睡眠を記録しました。結果は、嫌な体験のあとのほうが早く眠りに落ち、レム睡眠の割合が高くなるというものでした。3時間の記録に占める睡眠時間も、楽しい体験のあとが65.81±3.15%、嫌な体験のあとが72.46±4.48%です(Proceedings of the Royal Society B, 2017)。
ストレスがあると眠れなくなる、という人の直感とは逆向きです。研究チームは、嫌な体験のあとに早く眠りに落ちる点について、ストレスに対する防御的な眠りの可能性を挙げています。楽しいことがあった日にすぐ寝ないのは、興奮の続きで起きていられるからなのかもしれません。
ここは正直に書いておきます。うちの茶々丸は、雷でも緊急地震速報でも吠えて騒ぎますが、そのあとの眠り方が変わったと感じたことはありません。動物病院に行った日も同じです。実験室で3時間の昼寝を記録した結果を、そのまま家庭の夜に当てはめられるわけではない、ということでもあります(雷や花火を怖がる犬への対処をまとめた記事は別に書いています)。
はっきり違うと感じるのは、遊び倒した日です。ドッグランに行った日はよく寝ている感じがします。これは Bódizs らの総説にも、行動的に活動した日のあとの犬はよく眠り、うとうとの時間が減って NREM とレム睡眠の時間が増えると整理されています。散歩時間の目安をまとめた記事にも書いたとおり、その日の運動量と夜の眠りは地続きです。
子犬とシニア犬で眠りはどう変わるの?
子犬はよく眠ります。ただし、よく言われる「18〜20時間」という数字は、飼い主が実際に見ている時間とは違います。
Generation Pup の調査で、飼い主が報告した16週齢の子犬の総睡眠は平均11.2時間でした。飼い主が見ていない時間の眠りを拾えていない可能性は残りますが、少なくとも、20時間も寝ていないから何かおかしいのではないか、と心配する必要はありません。12ヶ月齢になると昼寝が減って夜にまとまるという変化のほうが、成長のわかりやすい指標になります。
シニア期に変わるのは、長さより質です。Mondino らはシニア犬28頭(10.4〜16.2歳)に、昼の12時半から13時半のあいだに始まる最大2時間の脳波記録を行いました(Frontiers in Veterinary Science, 2023)。2時間を完遂できたのは28頭中17頭です。認知症スコアが高い犬ほど、NREM 睡眠とレム睡眠がどちらも短くなっていました。
読むときに2つ条件がつきます。年齢そのものについては、高齢なほど覚醒が増えて NREM が減る傾向は見えたものの、多重比較の補正をかけると有意には届いていません。そして測ったのは午後の昼寝であって、夜の睡眠ではありません。夜間の記録で同じ結果になるかは分からない、と研究チーム自身が限界に挙げています。
昼の側にも報告があります。Zanghi らは9〜16歳のビーグル33頭(研究施設で飼育されている犬たちです)を空間作業記憶の成績で3群に分け、活動量計で睡眠を測りました。群どうしを比べると昼も夜も活動量に差はなく、夜間の睡眠効率も76.99±1.41%、80.61±1.47%、76.82±2.37%で差がありません。差が見えたのは相関のほうで、昼寝が多い犬ほど記憶課題の正答率が低いという負の相関が出ています(r=−0.39、Neurobiology of Sleep and Circadian Rhythms, 2016)。
年をとって昼寝が増えること自体は自然な変化です。注意したいのは、昼と夜のメリハリが崩れていく形の変化のほうになります。
「寝てばかり」「夜眠らない」は病気のサイン?受診を考える目安
前提として、犬が人より長く眠るのは正常です。寝ている時間の長さだけで病気を疑う必要はありません。
見るべきは変化の速さと、ほかの症状との組み合わせです。急に眠りが増えた、あるいは減った。いつもなら飛び起きる来客やおやつに反応しない。起きているのにぼんやりしている。食欲や遊びへの興味が落ちている。こうした変化が重なったときが相談のタイミングになります。
睡眠の変化の裏にある代表的な原因は、実測データつきで報告されています。
- 痛み: Gruen らは自然発症の変形性関節症がある犬15頭(平均10.29±2.48歳)に鎮痛薬とプラセボを交代で投与し、活動量計で1日の活動を追いました。鎮痛管理を行っているときは23時から朝6時までの夜間活動が減り、日中の活動が増えています(Scientific Reports, 2019)。夜中にゴソゴソと寝場所を変え続けるのは、楽な姿勢を探しているのかもしれません
- ホルモンの病気: Merck Veterinary Manual は、甲状腺機能低下症の徴候として無気力・運動をいやがること・体重増加を挙げ、4〜10歳の犬に多いとしています。よく寝るようになったことと体重が増えたことが同時に起きているなら、鑑別に挙がる病気のひとつです
- 認知機能不全症候群(犬の認知症): 睡眠覚醒サイクルの乱れは中核的な徴候のひとつで、DISHAA という評価の頭字語にも S として入っています。シニア犬の夜鳴きや徘徊を「老化だから仕方ない」で片づけないほうがよい理由がここにあります(詳しくは犬の認知症を DISHAA 評価ツールから整理した記事に書きました)
受診のときに効くのは、いつから・どのくらい・ほかに何が変わったかを言えることです。「なんとなく最近寝てばかりで」よりも「1週間前から夕方の散歩に誘っても起きない日が増えた」のほうが、診察は確実に前に進みます。
愛犬の睡眠は毎日どう見守ればいい?
特別な機械は要りません。飼い主の観察記録には、研究で裏づけられた価値があります。
Mondino らは犬の睡眠を飼い主が評価する質問票 SNoRE 3.0 を開発し、ポリソムノグラフィーと活動量計に対して妥当性を検証しました。質問票のスコアは NREM 睡眠に入るまでの時間と相関し(ρ=0.507)、犬用認知症スケール CADES のスコアとも中程度の正の相関を示しています(ρ=0.625、Scientific Reports, 2023)。毎日そばで見ている人がつけた点数が、実験室の機械が測った入眠までの時間と対応していたということです。
見るポイントは3つです。
- いつもとの差: 時間の絶対値ではなく、先週のその子と比べてどうか
- 夜の様子: 起きる回数、うろうろ、鳴き、呼吸の乱れ
- 昼の覚醒度: 呼びかけ、散歩の誘い、おやつへの反応
今回の取材でいちばん堪えたのは、見守りカメラの話でした。留守番中の茶々丸は、寝ているとき以外はけっこう玄関のほうを見ています。あれを見るのは何度やっても辛い。ただ、あの時間に何をしているかを知っているかどうかは、いつか獣医師に相談する日の材料になります。
SiPPO Friends のデイリーケアには、その日の様子をメモとして残せます。散歩の記録と同じ場所に「昨夜は3回起きた」「今日は夕方の散歩に誘っても起きなかった」と書いておけば、健康管理の記録は獣医レポートとしてまとめて持っていけます。睡眠時間を測る機能があるわけではありませんが、必要なのは分単位の計測ではなく、いつからどう変わったかを言えることのほうです。
まとめ
- 犬の睡眠時間は定義で動く。脳波実測でははっきり眠っているのが1日の35%、うとうとを含めると56%。飼い主報告の調査では総睡眠が平均11時間前後
- 眠りは細切れ。夜8時間で平均23回、16分眠って5分起きるのが都市部で暮らす犬の観察結果
- 一緒に寝ると、犬の動きは人が動き出す確率を3倍にする。飼い主は眠りの悪さを感じてはいるが、それを犬と結びつけていない。逆に飼い主も気づかないまま犬の眠りを削っている
- ピクピク(73.0%)・夢を見る様子(37.5%)・へそ天(40.2%)はありふれた光景。呼吸が止まる(0.5%)は例外で、動画を撮って受診する
- 受診の判断材料は時間の長さではなく、変化の速さと随伴症状。痛み・甲状腺機能低下症・認知機能不全症候群が代表的な背景
犬が何時間眠るかという問いに、ひとつの正解はありませんでした。あるのは、測り方ごとに違う数字と、その子の昨日と今日の差だけです。今夜も茶々丸は私のベッドの隣で、たぶん一晩に何度も起きながら眠ります。トントンされた夜は、静止から動き出す確率が3倍になったほうの夜だった、ということになります。
よくある質問
- 犬は1日に何時間寝るのが普通ですか?
- 何を睡眠に数えるかで変わります。健常なポインター6頭を24時間の脳波で記録した Lucas らの研究では、徐波睡眠が23%、レム睡眠が12%で、合わせて全体の35%でした。ここにうとうとした状態の21%を足すと56%になります。飼い主の報告を集めた調査では、1日の総睡眠は平均11時間前後です。よく見かける12〜14時間という数字は、うとうとを含んだ広い意味の休息時間に近い数字だと考えると説明がつきます。
- 犬が寝てばかりいるのは病気のサインですか?
- 犬はもともと人より長く眠るため、寝ている時間が長いこと自体は病気のサインではありません。目安になるのは、急に眠りが増えた・減ったという変化と、随伴症状の組み合わせです。おやつや来客にいつもなら反応するのにしない、起きているのにぼんやりしている、食欲が落ちた、体重が増えた、といった変化が重なるときは動物病院に相談してください。
- 犬が寝ながらピクピク動いたり寝言を言ったりしますが大丈夫ですか?
- 多くの場合は正常です。英国の Generation Pup コホートで12ヶ月齢時に回答のあった1,042頭では、足の小さなピクピクした動きを観察したという回答が73.0%で最も多く、37.5%がよく夢を見ていると答えました。VCA Animal Hospitals は、犬は眠り始めて20分ほどで夢を見はじめ、それはレム睡眠中に起きると解説しています。全身が硬直するけいれんが続き呼びかけに反応しない場合は発作の可能性があるため、動画を撮って獣医師に見せてください。
- 犬と一緒に寝ても大丈夫ですか?睡眠の質は落ちますか?
- 成人女性12人と愛犬の夜をアクチグラフで124晩記録した Hoffman らの研究では、犬が動くと人が静止状態から動き出す確率が3倍になりました。犬に邪魔されたと本人が記憶していたのは124晩のうち22晩ですが、犬の動きが多い夜は本人がつけた睡眠の質の評価も低くなっていました。ただし著者らは、この関連だけで因果は結論できないとし、犬の夜間の動きの大半は同じベッドの人に悪影響を与えているようには見えないとも述べています。
- 老犬が夜中に起きてうろうろするのはなぜですか?
- 加齢そのものによる変化に加えて、痛みや認知機能不全症候群が背景にあることがあります。Gruen らの研究では、変形性関節症の犬15頭に鎮痛管理を行うと23時から朝6時の夜間活動が減りました。Mondino らがシニア犬28頭の午後2時間の脳波を記録した研究では、認知症スコアが高い犬ほど NREM 睡眠とレム睡眠がどちらも短くなっていました。老化だからと片づけずに、動物病院で相談してください。
出典・参考文献
- Baseline sleep-wake patterns in the pointer dog — Physiology & Behavior(Lucas EA, Powell EW, Murphree OD, 1977;19(2):285-91、doi:10.1016/0031-9384(77)90340-7)
- Sleep-wake cycles and other night-time behaviours of the domestic dog Canis familiaris — Applied Animal Behaviour Science(Adams GJ, Johnson KG, 1993;36:233-248、doi:10.1016/0168-1591(93)90013-F)
- Sleep Duration and Behaviours: A Descriptive Analysis of a Cohort of Dogs up to 12 Months of Age — Animals(Kinsman R ほか, 2020;10(7):1172、doi:10.3390/ani10071172、Generation Pup コホート)
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- Sleep and cognition in aging dogs. A polysomnographic study — Frontiers in Veterinary Science(Mondino A ほか, 2023;10:1151266、doi:10.3389/fvets.2023.1151266)
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- Diurnal changes in core body temperature, day/night locomotor activity patterns, and actigraphy-generated behavioral sleep in aged canines with varying levels of cognitive dysfunction — Neurobiology of Sleep and Circadian Rhythms(Zanghi BM ほか, 2016;1(1):8-18、doi:10.1016/j.nbscr.2016.07.001)
- Functional linear modeling of activity data shows analgesic-mediated improved sleep in dogs with spontaneous osteoarthritis pain — Scientific Reports(Gruen ME, Samson DR, Lascelles BDX, 2019;9:14192、doi:10.1038/s41598-019-50623-0)
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- Study: Adult Dogs' Sleep/Wake Cycles Vary With Age, Sex, Size — NC State University News(Woods et al. 2020 のニュースリリース、Margaret Gruen コメント)
- Do Dogs Dream? — VCA Animal Hospitals(Krista Williams BSc DVM CCRP / Ryan Llera BSc DVM / Lynn Buzhardt DVM)
- Behavior Problems of Dogs — Merck Veterinary Manual(Stephanie Borns-Weil, DVM, DACVB, Tufts University、DISHAA の出典)
- Hypothyroidism in Animals — Merck Veterinary Manual(Johanna Heseltine, DVM, MS, DACVIM, Texas A&M University)
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SiPPO Friends 編集部
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