犬の僧帽弁閉鎖不全症ステージB2|ピモベンダンで延びる15か月の中身を論文で確かめた

動物病院で「心臓に雑音がありますね」と言われる。そのあと心エコーを撮って、「ステージB2です」「そろそろお薬を始めましょう」と説明される。家に帰って検索すると、ステージB2から薬を飲むと15か月延びる、と書いてある記事がいくつも出てきます。
その15か月が何の15か月なのかを書いている記事は、ほとんど見つかりません。
結論から書きます。その15か月は寿命が延びる期間ではなく、症状が出ないまま過ごせる期間です。 同じ試験で寿命の差も測られていて、そちらは約5か月でした。2つの数字は同じ論文の中で並んで報告されています。
この記事では、EPIC試験の原著論文とACVIM 2019のガイドライン、それに日本で承認されているピモベンダン製剤4つの添付文書を実際に読み比べ、どこまで分かっていてどこからが分かっていないのかを整理します。編集部として一次資料に当たった記録であり、特定の製品や治療方針をすすめるものではありません。診断・投薬・手術の判断は、必ずかかりつけの獣医師と相談してください。
ステージB2と言われたとき、心臓では何が起きている?
僧帽弁は、左心房と左心室のあいだにある扉です。これが加齢とともに厚く縮れて、閉じたときにすき間ができる。すると心室から大動脈へ送り出すはずの血液の一部が、心房へ逆流します。この病気が僧帽弁閉鎖不全症、あるいは粘液腫様僧帽弁疾患(MMVD)です。
逆流した分だけ、心臓は余計に働くことになります。長い時間をかけて左心房と左心室がふくらみ、やがて肺に水が溜まる。これが心不全です。
小型犬に多く、高齢になるほど増えます。犬種の偏りははっきりしていて、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルは特に知られた好発犬種です。エディンバラの研究チームが8歳以上のキャバリア126頭を診察した2021年の報告では、心雑音が聴取されたのは112頭(89%)でした。心エコーでは126頭すべて、つまり100%にMMVDの所見がありました。
数字の読み方には注意が要ります。これは8歳以上のキャバリアだけを集めた集団の話で、犬全般の割合ではありません。ただ、聴診で拾えたのが89%、エコーで見えたのが100%という差そのものは、この病気の性質をよく表しています。聴診器だけでは分からない段階がある、ということです。
ステージ分類は4段階あります。Aは発症していないがリスクのある犬種、Bは逆流はあるが心不全の症状がない段階、Cは心不全の症状が出た段階、Dは治療に反応しにくくなった段階です。そしてBは2つに分かれます。
ステージB1とB2は、どの数字で分かれる?
心臓が大きくなっているかどうか、正確には心拡大が決められた基準に届いているかどうかで分かれます。基準を満たせばB2です。ガイドラインは、心臓の形態変化はあるがまだ臨床試験の基準に達しない段階も、B1に含めています。
ACVIM(米国獣医内科学会)が2019年に出したコンセンサスガイドラインは、B2をこう定義しています。
| 項目 | 基準 | 何で調べるか |
|---|---|---|
| 心雑音の強さ | グレード3/6以上 | 聴診 |
| LA/Ao比 | 1.6以上 | 心エコー |
| LVIDDN(体重補正した左室拡張期径) | 1.7以上 | 心エコー |
| VHS(心臓椎骨スコア) | 10.5超(犬種で補正) | レントゲン |
LA/Ao比は、左心房が大動脈の何倍の太さになっているかを示します。心房がふくらむほど数字が大きくなります。LVIDDNは左心室の広がりを体重で補正した値です。VHSは、心臓の大きさを背骨の椎骨いくつぶんかで表したもので、レントゲン写真から計算します。
検査結果の紙にこれらの値が書かれていることがあります。自分の犬がどのあたりにいるのかを知る手がかりになります。
B1と診断された場合、ガイドラインは薬も食事療法も推奨していません。原文は "No drug or dietary treatment is recommended"(薬物治療も食事療法も推奨されない)と書き、そのうえで6〜12か月後に心エコー(撮れない場合はレントゲン)で再評価することを勧めています。
経過観察という言葉は放っておくことのように聞こえますが、ガイドラインが言っているのは「時期を決めてもう一度測る」ことです。B1とB2の境目は数字で引かれていて、その数字は時間とともに動きます。
無症状なのに薬を飲ませるのは、なぜ?
症状が出るまでの時間を延ばせることが、試験で示されたからです。
根拠になっているのがEPIC試験です。2016年にJournal of Veterinary Internal Medicineに掲載された、多施設・二重盲検・プラセボ対照のランダム化比較試験で、360頭が組み入れられました。
組み入れの条件は細かく決まっています。6歳以上、体重4.1kg以上15kg以下、グレード3/6以上の心雑音、そしてLA/Ao比1.6以上・LVIDDN 1.7以上・VHS 10.5超のすべてを満たすこと。つまり全頭がステージB2でした。
被験犬の内訳も特徴的です。解析対象354頭のうち161頭、45.5%がキャバリアでした。組み入れ集団の年齢の中央値は9.0歳です。キャバリアや小型犬を飼っている人にとっては、自分の犬に近い集団のデータということになります。
結果はこうです。心不全の発症・心臓が原因の死亡・安楽死のいずれかに至るまでの期間の中央値は、ピモベンダン群で1228日、プラセボ群で766日でした。ハザード比は0.64(95%信頼区間0.47〜0.87)、P値は0.0038です。
差は462日。論文はこれを「約15か月」と表現しています。
日本でよく引用される15か月は、この数字です。
ピモベンダンで延びるのは、寿命?それとも無症状の時間?
ここが、この記事でいちばん書きたかったところです。
EPIC試験は生存期間も測っています。生存期間の中央値は、ピモベンダン群1059日、プラセボ群902日でした。P値は0.012で、統計的な差はあります。
差は157日。およそ5か月です。
15か月と5か月。どちらもEPIC試験の数字ですが、測っている対象も、解析した集団も違います。15か月は組み入れ基準を満たした354頭で測った、症状が出ないままでいられた期間の差。5か月は投薬を受けた359頭で測った、生きていた期間の差です。日本語で「15か月延びる」とだけ書かれると、寿命が15か月延びるように読めてしまいます。
さらに細かく見ると、もう一段あります。論文はエンドポイントを分解した解析も載せていて、そこでは差の出方が項目によって違いました。
| 分けて見た結果 | ピモベンダン群 | プラセボ群 | ハザード比 | P値 |
|---|---|---|---|---|
| 心不全の発症 | 59/178(33.1%) | 76/176(43.2%) | 0.58(0.42〜0.82) | 0.0018 |
| 心臓が原因の死亡・安楽死 | 15/178(8.4%) | 12/176(6.8%) | 0.96(0.45〜2.1) | 0.92 |
表のP値は、割合を比べた検定ではなく、そこに到達するまでの時間を比べた検定(log-rank)の値です。割合そのものを見ると、主要評価項目に到達した犬はピモベンダン群41.6%、プラセボ群50.0%で、P値は0.14。差は示されていません。
心不全の発症までの時間では、はっきり差がついています。一方、心臓が原因の死亡・安楽死だけを取り出すと、ハザード比0.96、P値0.92。やはり差は見えていません。論文自身も、観察された利益の大部分は心不全の発症を遅らせたことによるものだ、と書いています。
延びたのは、主要評価項目に到達するまでの時間です。到達した犬の割合そのものには、差は示されていません。
ただし、全死因死亡は別でした。試験終了の時点で亡くなっていた犬は、ピモベンダン群179頭中83頭、プラセボ群180頭中103頭。割合にすると46.4%と57.2%で、P値は0.026です。こちらは割合にも差がついています。
ただし、この差の読み方には制約がかかります。主要評価項目に到達したあと、心不全を起こした犬は治療の一環として全頭がピモベンダンを投与されました。プラセボ群も心不全になった時点から同じ薬を飲んでいる、ということです。それ以外の治療も統制されなくなり、論文はこの治療内容のばらつきを、全死因死亡の解析における交絡因子だと述べています。
つまり生存期間の5か月も、亡くなっていた犬の割合の差も、単純に飲む場合と飲まない場合を比べた結果ではありません。早く始めた場合と、心不全になってから始めた場合の差に近いものです。
資金の出どころも書いておきます。この試験はベーリンガーインゲルハイム アニマルヘルスが全額出資しました。ピモベンダンを製造している会社です。論文はこの点を自ら議論していて、獣医領域にはNIHに相当する大規模な独立助成機関が存在しないため、この規模の試験は企業出資でしか成立しないと説明しています。あわせて、主任研究者の契約には試験結果にかかわらず独立して公表する権利が明記されていた、と記しています。
では、資金の出どころが違う研究ではどうでしょうか。2025年にPLOS Oneへ掲載されたVetCompassの研究が、英国のプライマリケア診療記録928頭を使って、EPICと同じ問いを観察データで検証しています。ピモベンダンを処方されたのは178頭、全体の19.2%でした。
5年時点での調整後の平均生存期間は、処方群1051日、非処方群905日。EPIC試験の1059日と902日に、かなり近い値です。心不全の累積発生率は34.1%と56.3%でした。
この研究の助成元はDogs TrustとRoyal Society-Wellcome Trustで、製薬企業ではありません。ただし著者まで無関係というわけではありません。共著者にはEPICの主任研究者が入っていて、ベーリンガーインゲルハイムとのコンサルタント契約と研究資金の受領を、利益相反として申告しています。研究デザインも違い、対象の定義は心エコーで確定したB2ではなく、グレード4/6の心雑音が初めて記録された時点です。単純な追試ではありません。
それでも、生存期間の差が別のデータ・別の手法でも同じくらいの大きさに落ち着いたことは、読み手にとって意味のある情報だと思います。
ここまでが測られた事実です。そのうえで私の立場を書くと、5か月と15か月を区別して伝えることは、薬を飲ませない理由にはならないと考えています。症状が出ないまま過ごせる1年3か月は、犬にとっても飼い主にとっても短くありません。ただ、寿命が15か月延びると思って始めた人と、無症状の時間が15か月延びると理解して始めた人とでは、その後に起きることの受け止め方が変わります。これは数字が出した結論ではなく、書き手としての価値判断です。
日本で処方される薬は、製剤によって何が違う?
ピモベンダンは日本でも複数の製品が承認されています。有効成分は同じですが、添付文書に書かれた効能・効果は製品ごとに違います。
農林水産省の動物用医薬品等データベースで4製品を確認しました。
| 製品名 | 製造販売元 | 効能・効果に無徴候性(無症状)の記載 |
|---|---|---|
| ベトメディンチュアブル1.25mg | ベーリンガーインゲルハイム アニマルヘルス ジャパン | あり |
| ベトメディン経口液 | 同上 | あり |
| ベトメディン1.25mg | 同上 | なし |
| ピモベハート錠1.25 | リケンベッツファーマ | なし |
「あり」の2製品には、効能・効果にこう書かれています。「心拡大を伴う無徴候性の僧帽弁閉鎖不全に続発する慢性心不全に伴う症状の発現の遅延及び心拡大の進行抑制」。
読み下すと、心臓が大きくなっているが症状は出ていない犬に対して、症状が出るのを遅らせ、心拡大の進行を抑える、ということです。EPIC試験が示したことが、そのまま日本の添付文書の文言になっています。
注目してほしいのは動詞です。遅延、そして抑制。延命とは書かれていません。
一方「なし」の2製品は、効能・効果が「僧帽弁閉鎖不全による慢性心不全に伴う症状の改善」だけです。ベトメディン1.25mgは2008年に承認された製剤、ピモベハート錠1.25は2015年に別の会社が承認を取得した、同じ有効成分の製剤です。
これは、後者が劣るという意味ではありません。有効成分は同じで、添付文書に書かれた用量と投与間隔も4製品で共通しています。体重1kgあたりピモベンダンとして0.25mgを1回量とし、1日2回、朝夕おおよそ12時間間隔での経口投与です。違うのは、承認を申請した効能の範囲のほうです。
なおピモベンダン製剤は要指示医薬品です。添付文書は、獣医師等の処方箋・指示により使用すること、そして定められた用法・用量を厳守することを求めています。実際に飲ませる量は体重に応じて決まります。錠剤は体重ごとの投与量が表で示され、経口液は専用の計量シリンジで量ります。判断は獣医師に委ねられます。
ただ、無症状の段階で薬を始めるという判断の根拠が、製品によって添付文書に書いてあったり書いていなかったりする。処方された薬の名前を確認して、気になることがあれば獣医師に尋ねる材料にはなると思います。同じ「添付文書を読む」という作業を犬のアトピー薬の記事でもやっていて、そちらでは製剤の種類によって対象動物まで違う例が出てきました。
副作用については、ベトメディンの添付文書に「まれに軽度の頻脈及び嘔吐がみられることがある」と記載があり、これらは用量依存性のため投与量を減らすことで避けられることがある、と続きます。EPIC試験でも、重度以上の有害事象が起きた犬の割合はピモベンダン群10.6%、プラセボ群10.6%で、P値は0.82でした。差は認められていません。
家でできることは、何がある?
眠っているときの呼吸数を数えることです。
無症状の左心系心疾患の犬190頭を対象にした2013年のJAVMA掲載研究では、睡眠中の呼吸数の犬ごとの平均は1分あたり16回でした。安静時の呼吸数は21回です。研究チームは、この集団の睡眠時呼吸数はおおむね25回未満で、それを超えることはまれだったと報告しています。
薬でコントロールされた左心系心不全の犬猫を調べたThe Veterinary Journalの2016年の研究は、犬51頭と猫22頭を対象にしました。犬の睡眠時呼吸数は中央値で1分あたり20回、安静時は24回です。著者らは、状態が安定していれば大半が30回未満に収まると結論づけています。ただし安静時に30回以上だった犬も7頭いました。全頭が下回るわけではありません。
数え方は簡単です。眠っている犬の胸かお腹が上下する回数を、15秒数えて4倍します。毎日でなくてもかまいません。健康なうちに何回くらいなのかを知っておくことが大事で、比べる相手はよその犬ではなく、ふだんのその子です。
明らかに増えた状態が数日続くときや、呼吸が苦しそうなときは、様子を見ずに受診してください。 肺に水が溜まりはじめているサインのことがあります。
咳については、注意すべき点があります。ACVIM 2019のガイドラインは、僧帽弁の位置に典型的な心雑音がある犬が咳をしていても、その症状が心不全によるものとは限らないと述べています。慢性の気管・気管支の病気は、この病気のリスクが高い集団にもともと多く、レントゲンや心エコーを含む診察が必要になる、という趣旨です。心臓の病気があるとどうしても咳を心臓のせいにしたくなりますが、原因は分けて考える必要があります。
食欲の変化も見ておく価値があります。EPIC試験の多変量解析では、食欲が落ちていることが予後の悪さと関連していました。体重そのものはこの解析のモデルに入っていませんが、食欲や体調の変化は、家にいる人がいちばん早く気づけます。体型の見方はBCS(ボディコンディションスコア)の記事にまとめてあります。心臓に持病がある犬は暑さにも弱くなるので、熱中症の記事の判断基準もあわせて読んでもらえればと思います。
手術という選択肢は、どういうものか?
薬のほかに、弁そのものを修復する外科手術があります。
僧帽弁形成術と呼ばれ、人工心肺を使って心臓を止め、伸びたり切れたりした腱索を人工の糸で作り直し、広がった弁の輪を縫い縮める手術です。ACVIM 2019のガイドラインも、合併症率の低い施設であればステージCの患者は弁の修復手術で利益を得る、と述べています。
日本はこの手術の実施例が多い国です。横浜のJASMINEどうぶつ循環器病センターで2017年1月から2020年12月に手術を受けた1019頭を追跡した研究が、2025年にJournal of Veterinary Internal Medicineへ掲載されています。手術そのものを生き延びた犬は、ステージB2で320頭中318頭、ステージCで562頭中560頭、ステージDで137頭中136頭でした。退院に至ったのは、それぞれ305頭、538頭、125頭です。手術を乗り切ることと、退院までたどり着くことは同じではありません。
この研究は単一施設の後ろ向き研究で、著者自身が限界を挙げています。剖検を行わず死因を診療記録と電話聞き取りから推定していること、犬種構成の半数がチワワで過去の報告と異なること、ステージB2の犬が術前に利尿薬を投与されていたため一般的な内科管理の集団を代表していないこと、などです。
もうひとつ、日本の位置を示すデータがあります。2023年にScientific Reportsへ掲載された調査によると、2017年9月から2019年3月のあいだに82頭の犬が、この手術を受けるために海外から日本へ渡航しました。うち再手術の2頭を除いた80頭が解析の対象です。内訳はアメリカ大陸から57頭、アジアから19頭、ヨーロッパから4頭でした。
渡航そのものの生存率は、この80頭に対して97.5%。実際に手術を受けた75頭のうち3頭が術後に亡くなり、手術の生存率は96.0%でした。同じ期間に同じ施設で手術を受けた国内の犬629頭では94.3%です。
著者らは、専門の手術チームと専用の機器を備えた施設が世界的にまだ限られていることを、渡航の理由として挙げています。
現実的な話をすると、この手術はどこの動物病院でも受けられるものではなく、費用も大きく、すべての犬が適応になるわけでもありません。選択肢として存在することを知っておくのと、いま決めることは別です。気になる場合は、かかりつけの獣医師に循環器の専門診療科への紹介について相談するのがはじめの一歩になります。
まとめ
ステージB2でピモベンダンを始めることには、根拠があります。EPIC試験で心不全の発症までの期間が約15か月延びました。英国の実診療データでも、生存期間の差は近い値で再現されています。
ただし延びているものの中身は分けて理解しておく価値があります。
- 症状が出ないまま過ごせる期間: 中央値で1228日と766日、差は約15か月
- 生存期間: 中央値で1059日と902日、差は約5か月。ただし心不全後は両群とも投薬あり
- 心臓が原因の死亡・安楽死だけを見た場合: 統計的な差は認められていない
そして薬を始める線引きは、心雑音ではなく心拡大です。ACVIM 2019はB1に対して薬を推奨せず、6〜12か月後の再評価を勧めています。EPIC試験の論文も、心雑音があるすべての犬への投与はこの結果からは正当化されないと明記しています。心雑音を指摘されたら、次に必要なのは薬ではなく、心エコーとレントゲンで今どこにいるかを測ることです。
家でできることは、眠っているときの呼吸数を知っておくこと。数字を持っている飼い主は、変化に早く気づけます。
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この記事は一般的な情報提供を目的としており、獣医師の診断に代わるものではありません。愛犬の心臓について不安がある場合は、かかりつけの獣医師にご相談ください。
よくある質問
- 犬の僧帽弁閉鎖不全症のステージB2とは何ですか?
- 症状はまだ出ていないが、心臓が大きくなり、その程度が基準を満たしている段階です。ACVIM 2019のガイドラインは4つの基準で線を引いています。心雑音がグレード3/6以上、心エコーのLA/Ao比が1.6以上、体重で補正した左室拡張期径(LVIDDN)が1.7以上、レントゲンの心臓椎骨スコア(VHS)が10.5超です。心雑音だけではB2かどうかは決まらず、心エコーとレントゲンが必要になります。
- 無症状なのにピモベンダンを飲ませる意味はありますか?
- あります。360頭を組み入れたEPIC試験の解析対象354頭では、心不全の発症または心臓が原因の死亡までの期間の中央値が、ピモベンダン群1228日、プラセボ群766日でした。差は約462日、およそ15か月です。ただしこの効果はステージB2の犬で確かめられたもので、心雑音があるだけの犬に当てはめられる結果ではありません。
- ピモベンダンで寿命はどれくらい延びますか?
- EPIC試験での生存期間の中央値は、ピモベンダン群1059日、プラセボ群902日でした。差は157日、およそ5か月です。よく言われる15か月は寿命の差ではなく、症状が出ないまま過ごせる期間の差です。なおこの試験では心不全を起こした犬は全頭がその後ピモベンダンを投与されているため、生存期間の比較は単純な「飲む対飲まない」ではなく「早く始める対あとから始める」に近い形になっています。
- 心雑音があると言われたら、すぐに薬を始めるべきですか?
- いいえ、心拡大がなければ始めません。ACVIM 2019のガイドラインは、心雑音はあるが心拡大が基準に届いていないステージB1について、薬も食事療法も推奨せず、6〜12か月後の再評価を勧めています。EPIC試験の論文自身も、僧帽弁閉鎖不全症に矛盾しない心雑音があるすべての犬への投与は、この試験の結果からは正当化されないと書いています。
- 家で心不全の始まりに気づく方法はありますか?
- 眠っているときの呼吸数を数える方法があります。無症状の左心系心疾患の犬190頭を調べた研究では、睡眠時の呼吸数の平均は1分あたり16回で、25回を超えることはまれでした。薬でコントロールされた心不全の犬猫を調べた別の研究では、犬の睡眠時呼吸数の中央値は20回で、大半が30回未満でした。ふだんの数を知っておき、明らかに増えた状態が続くときは受診の目安になります。
出典・参考文献
- Effect of Pimobendan in Dogs with Preclinical Myxomatous Mitral Valve Disease and Cardiomegaly: The EPIC Study—A Randomized Clinical Trial — Journal of Veterinary Internal Medicine(Boswood A, Häggström J, Gordon SG, et al. 2016;30(6):1765-1779, doi:10.1111/jvim.14586)
- ACVIM consensus guidelines for the diagnosis and treatment of myxomatous mitral valve disease in dogs — Journal of Veterinary Internal Medicine(Keene BW, Atkins CE, Bonagura JD, et al. 2019;33(3):1127-1140, doi:10.1111/jvim.15488)
- Emulating the EPIC trial using VetCompass primary-care data: causal effects of pimobendan in UK dogs with grade IV/VI heart murmurs — PLOS One(Pegram C, Diaz-Ordaz K, Brodbelt DC, et al. 2025, doi:10.1371/journal.pone.0325695)
- 動物用医薬品等データベース ベトメディンチュアブル1.25mg(ピモベンダン) — 農林水産省 動物医薬品検査所
- 動物用医薬品等データベース ベトメディン経口液(ピモベンダン) — 農林水産省 動物医薬品検査所
- 動物用医薬品等データベース ベトメディン1.25mg(ピモベンダン) — 農林水産省 動物医薬品検査所
- 動物用医薬品等データベース ピモベハート錠1.25(ピモベンダン) — 農林水産省 動物医薬品検査所
- Sleeping and resting respiratory rates in dogs with subclinical heart disease — Journal of the American Veterinary Medical Association(Ohad DG, Rishniw M, Ljungvall I, Porciello F, Häggström J. 2013;243(6):839-843)
- Sleeping and resting respiratory rates in dogs and cats with medically-controlled left-sided congestive heart failure — The Veterinary Journal(Porciello F, Rishniw M, Ljungvall I, Ferasin L, Häggström J, Ohad DG. 2016;207:164-168)
- Clinical and Echocardiographic Findings in an Aged Population of Cavalier King Charles Spaniels — Animals(Prieto Ramos J, Corda A, et al. 2021;11(4):949, doi:10.3390/ani11040949)
- Long-Term Outcomes of Mitral Valve Repair With Artificial Chordae and Annuloplasty for Myxomatous Mitral Valve Disease in Dogs — Journal of Veterinary Internal Medicine(Kurogochi K, Furusato S, Takahashi E, et al. 2025, doi:10.1111/jvim.70171)
- A survey on dogs with valvular disease flying to Japan for operation — Scientific Reports(Takahashi A, Takeuchi S, Chen A, Uechi M. 2023, doi:10.1038/s41598-023-29476-1)
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