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犬のアトピー薬、アポキルとサイトポイントどっちがいい?添付文書3剤を読み比べた

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掃き出し窓の前で白いカーテンの脇に伏せ、外を静かに眺めている茶色い巻き毛の小型犬の後ろ姿

犬のアトピー性皮膚炎と診断されて、動物病院で薬の名前を言われる。家に帰ってその名前で検索すると、通販サイトと、断片的な情報を書いた記事ばかりが出てくる。どちらがいいのか、いつまで続けるのか、何が起きうるのか。知りたいことに答えている記事が見つからない。

結論から書きます。アポキルとサイトポイントのどちらが優れているかは、一言では決まりません。 添付文書に載っている比較試験を読むと、飼い主が痒みを評価したスコアと、獣医師が皮膚を評価したスコアで、3か月後の答えが逆になります。

この記事では、日本で承認されているアポキル錠・サイトポイント・アトピカの添付文書を実際に読み比べ、国内の副作用報告と国際ガイドラインを突き合わせて、どこまで分かっていてどこからが分かっていないのかを整理します。編集部として一次資料に当たった記録であり、特定の製品をすすめるものではありません。投薬の開始・変更・中止の判断は、必ずかかりつけの獣医師と相談してください。

アポキルとサイトポイント、どちらを選べばいいのか?

「どちらが効くか」という問いには、公開されているデータからは一言で答えられません。

理由は単純で、効き方を測るものさしが2種類あり、その2つが違う結論を出しているからです。

ひとつはVAS(Visual Analog Scale)。飼い主が愛犬の痒みの程度を、線の上に印をつけて答える方式です。もうひとつはCADESI-03(Canine Atopic Dermatitis Extent and Severity Index version 3)。獣医師が体の各部位を診て点数をつける指標で、紅斑・苔癬化・表皮剥離・自己誘発性脱毛の有無と重症度を評価します。

前者は「痒がっているか」を、後者は「皮膚が荒れているか」を測っています。飼い主が家で見ているのは前者で、診察室で獣医師が見ているのは後者です。

この2つが、投与から3か月の時点で逆の結果になります。詳しくは後述しますが、この記事でいちばん伝えたいのはそこです。

まず、2つの薬が体の中で何をしているのかから整理します。

2つの薬は、どこで痒みを止めているのか?

止めている場所が違います。

痒みが脳に伝わるまでには、複数の伝達物質と受容体が関わります。犬のアトピー性皮膚炎では、IL-31(インターロイキン31)というサイトカインが痒みを起こす主要な物質として知られています。

サイトポイントは、このIL-31そのものを捕まえる薬です。添付文書は「イヌ化抗イヌインターロイキン-31(IL-31)モノクローナル抗体製剤」と説明しており、有効成分のロキベトマブがIL-31を中和すると書かれています。信号を出している物質自体を、受け取られる前に掴んでしまう仕組みです。

アポキルは、信号を受け取った後の伝達経路を止めます。添付文書によれば、オクラシチニブは選択的JAK1阻害剤で、細胞内のシグナル伝達を担うヤヌスキナーゼ(JAK)ファミリーのうちJAK1を主に阻害します。

阻害の強さは数値で示されています。IC50(50%阻害濃度)という指標で、数値が小さいほど低い濃度で効くという意味です。単離した酵素を使った試験の結果は次のとおりです。

酵素IC50
JAK110nM
JAK218nM
JAK399nM
TYK284nM

添付文書は、オクラシチニブがJAK1に対して最も強い阻害作用を示したと記載しています。

ただし、酵素単体での強さと、細胞の中でサイトカインの働きが実際に止まるかどうかは別の話です。細胞モデルを使った試験では、結果が分かれました。痒みや炎症に関わるJAK1依存性サイトカイン(IL-2、IL-4、IL-6、IL-13、IL-31)に対するIC50は36〜249nM。一方、造血や生体防御に関わるJAK2依存性サイトカイン(エリスロポエチン、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子、IL-12、IL-23)に対しては1000nMを超えました。後者について添付文書は「阻害作用はほとんど認められなかった」と記載しています。

つまりアポキルは、痒みの信号線を選んで切ろうとしている薬です。酵素の段階ではJAK2も18nMで阻害されますが、細胞のなかでJAK2依存性のサイトカインの働きが止まるところまでは至っていない、というのが添付文書の説明です。

ここで押さえておきたいのは、IL-31を止めるサイトポイントに対して、アポキルはIL-31を含む複数のサイトカインの経路をまとめて止めているという構図です。この違いが、次に見る効き方の差につながります。

効きはじめの速さは、どれくらい違うのか?

投与の翌日で21.8%対8.3%。サイトポイントのほうが速く立ち上がります。

サイトポイントの添付文書には、ベルギー・オランダ・フランス・ドイツの40の動物病院で実施された無作為盲検化臨床試験の結果が載っています。犬アトピー性皮膚炎に罹患した犬を対象に、サイトポイント群142頭とシクロスポリン製剤(アトピカと同じ有効成分)を投与した陽性対照群132頭を、84日間観察したものです。

飼い主が評価するVASスコアの減少率は、次のように推移しています。

経過日数サイトポイント群シクロスポリン群
Day 121.8%(有意差あり)8.3%
Day 233.7%(有意差あり)15.2%
Day 743.8%(有意差あり)24.9%
Day 1452.5%(有意差あり)33.5%
Day 2151.0%(有意差あり)38.1%
Day 2851.9%43.7%
Day 5656.8%(有意差あり)44.4%
Day 8459.7%53.0%

投与の翌日にはもう差がついています。Day1からDay21まで、そしてDay56で、両群間に有意差(p<0.05)が示されています。

この立ち上がりの遅さは、シクロスポリン側の性質として知られてもいます。犬アトピー性皮膚炎の国際的な治療指針であるICADA 2015のガイドラインは、シクロスポリンについて「5mg/kgを1日1回、臨床症状が満足にコントロールされるまで投与する。通常は4〜6週かかる」と記載しています。効果が形になるまでに1か月以上を見込む薬です。

(ICADAはInternational Committee on Allergic Diseases of Animalsの略で、動物のアレルギー疾患について国際的な治療指針を公表している専門家委員会です)

痒くて眠れない犬と、それを見ている飼い主にとって、最初の1週間の差は小さくありません。ここはサイトポイントの明確な利点です。

ただし表の右端、Day84の行を見てください。59.7%と53.0%で、有意差の印がついていません。差が縮まっています。

3か月後、なぜ評価が逆転するのか?

同じ試験で、獣医師が評価したスコアを見ると、順位が入れ替わります。

CADESI-03スコアの減少率は次のとおりです。

経過日数サイトポイント群シクロスポリン群
Day 1444.3%42.3%
Day 2854.2%56.9%
Day 5662.3%67.4%
Day 8462.0%(有意差あり)74.3%

Day28以降、皮膚の状態を示すスコアではシクロスポリン群のほうが良い数字になっています。そしてDay84では両群間の差が有意でした。数値は62.0%対74.3%で、シクロスポリンを投与された犬のほうが大きく下がっています。有意差の印は「その日の両群の差が統計的に意味のある大きさだった」ことを示すもので、印がついている側が優れているという意味ではありません。

同じ試験の、同じ犬たちです。飼い主が「痒がらなくなった」と感じている一方で、獣医師が診た皮膚の荒れ方は、シクロスポリンを飲んでいた犬のほうが良くなっている。

痒みを止めることと、皮膚の炎症を治めることは、同じではないということだと読めます。サイトポイントはIL-31を中和して痒みの信号を遮断しますが、皮膚で起きている炎症そのものに対しては、免疫全体を抑えるシクロスポリンのほうが時間をかけて効いた、という結果です。

この試験を読むときに落としてはいけない条件が4つあります。

ひとつ、この試験のCADESI-03スコアは最大1240点で、投与前のスコアが60未満の犬は試験に組み入れないことになっていました。軽症の犬は入っていません。

ふたつ、減少率は単純な平均ではなく最小二乗平均値として算出されています。平均スコアの数字から手計算で検算しても一致しません。

みっつ、シクロスポリン群には投与量を減らす取り決めが二段階でありました。添付文書には「投与開始後4週で投与開始時と比較して50%を超えるCADESI-03スコアの減少が認められた場合は、2日に1回投与に変更してもよいものとした」とあります。さらに「投与開始後8週で76%を超えるCADESI-03スコアの減少が認められた場合は、3日に1回投与に変更してもよいものとした」と続きます。実際に何頭が減量したかは記載がないため、そこは分かりません。

よっつ、投与前のスコア自体が両群で揃っていません。CADESI-03の平均スコアはサイトポイント群184に対しシクロスポリン群165、VASは74に対し70で、どちらもサイトポイント群のほうが重い状態から始まっています。減少率だけを並べて読むときは、この差も頭に入れておく必要があります。

なお、似た傾向はアポキルの添付文書にある国内試験でも見られます。犬アトピー性皮膚炎を対象に、アポキル群とシクロスポリン群を比較した試験です。皮膚病変スコア(CADESI-02)の変化率は、Day14が-53.0%対-45.1%、Day28が-61.5%対-61.6%、Day56が-66.2%対-73.9%でした。ここでも、2週の時点ではアポキルが上回り、4週でほぼ並び、8週でシクロスポリンが逆転しています。評価頭数が各群12〜19頭と少ない試験なので強い結論は引き出せませんが、方向は揃っています。

「サイトポイントは副作用がほぼない」は本当か?

添付文書の数字を見る限り、ほぼないとは言えません。

同じ比較試験の安全性の項に、試験期間中にサイトポイント群で2%以上の頻度で認められた有害事象が一覧されています。

有害事象サイトポイント群(142頭)シクロスポリン群(132頭)
嘔吐22頭(15.5%)49頭(37.1%)
下痢19頭(13.4%)47頭(35.6%)
元気消失14頭(9.9%)11頭(8.3%)
細菌性皮膚感染症10頭(7.0%)1頭(0.8%)
皮膚炎及び湿疹8頭(5.6%)6頭(4.5%)
外耳炎8頭(5.6%)4頭(3.0%)
食欲不振7頭(4.9%)5頭(3.8%)
掻痒6頭(4.2%)9頭(6.8%)
紅斑4頭(2.8%)1頭(0.8%)
外耳疾患NOS4頭(2.8%)1頭(0.8%)
耳炎NOS4頭(2.8%)5頭(3.8%)
高熱3頭(2.1%)0頭
脱毛3頭(2.1%)0頭
跛行3頭(2.1%)1頭(0.8%)

(NOSは「特定不能」の意味です)

サイトポイント群でも、およそ6頭に1頭が嘔吐しています。注射だから消化器に影響しないということはありません。

同時に、この表は反対のことも示しています。嘔吐と下痢に関しては、シクロスポリン群のほうがはるかに高い頻度です。37.1%と35.6%ですから、3頭に1頭以上が経験した計算になります。消化器症状の負担という点では、サイトポイントのほうが軽い。

一方で、細菌性皮膚感染症・紅斑・脱毛はサイトポイント群のほうが多く報告されています。どちらか一方が全面的に安全ということではなく、出方が違うと読むのが正確です。

抗体製剤ならではの注意点もあります。サイトポイントの添付文書には、こう書かれています。

本剤の投与により、本剤に対する抗体が産生されることがある。また、産生された抗体により、本剤の有効性が減弱する可能性がある。

最初はよく効いていたのに手応えが落ちてきた、という経過があり得る薬だと、添付文書自身が書いているわけです。

同じ添付文書は、有効成分が蛋白質であることに触れたうえで「他の免疫学的製剤と同様、過敏性反応が生じる可能性がある」とも記載しています。ただしこちらには「なお、臨床試験での発現は認められていない」という但し書きが付いています。

添付文書は、何に注意しろと書いているのか?

3剤で書き方に温度差があります。

いちばん分かりやすいのが「警告」欄の有無です。アトピカの添付文書には、独立した警告欄があります。

【警告】本剤(シクロスポリン)は、全身の免疫抑制により感染症への感受性増加及び腫瘍の成長を引き起こす可能性がある。

アポキルとサイトポイントに警告欄はありません。ただしアポキルは、同じ趣旨を「重要な基本的注意」の項に書いています。

本剤は感染症に対する感受性を高め、腫瘍(潜在性の腫瘍を含む)を悪化させる可能性があるため、慎重に投与し、継続的に観察すること。

書かれている中身はかなり近く、置かれている欄の格が違います。警告欄がないほうが安全、と読むのは誤りです。

投与してはいけない犬の条件も、それぞれ違います。

アポキル錠サイトポイントアトピカ
月齢の下限12か月齢未満記載なし生後6か月齢未満
体重の下限3.0kg未満1.5kg未満2kg未満
悪性腫瘍進行性悪性腫瘍の疑いのある犬には投与しない記載なし悪性腫瘍の病歴または疑いのある犬には使用しない
重篤な感染症投与しない記載なし既存の感染症が悪化する可能性
生ワクチン後述記載なし投与中の接種は禁忌

生ワクチンの扱いは、3剤でいちばん差が出るところです。アトピカは禁忌、つまり投与中は接種してはいけないと明記されています。サイトポイントには記載がありません。

アポキルはやや複雑で、同じ添付文書の中に、書き方の違う2つの記述があります。「その他の注意」の項では、こう書かれています。

本剤投与群8頭中2頭が、犬パラインフルエンザウイルスに対して基準に適合する抗体価を示さず、適切な免疫応答が誘導されなかった。

そして「対象動物安全性」の項では、同じ8頭中2頭について、こう説明されています。

CPIVに対しては8頭中2頭が抗体価の十分な上昇(1:16以上)を示さなかったが、その要因の一つとして、健康な犬においてもCPIVに対する抗体反応に個体差があることが考えられた。

同じ結果を、片方は「適切な免疫応答が誘導されなかった」と書き、もう片方は健康な犬にも個体差があることを要因のひとつとして挙げています。

どちらの記述にも共通する前提があります。この試験は常用量ではなく、3倍量を1日2回84日間投与した条件で行われました。添付文書自身が「用法用量に従った本剤の投与期間中のワクチン投与において、本所見が発現するかどうかは確認されていない」と書いています。そのうえで「本剤投与期間中にパラインフルエンザウイルスワクチンの接種は極力避けること」という注意が置かれています。

ワクチンの時期が近い場合は、投薬中であることを獣医師に伝えるだけの価値はある記述です。

長く飲ませ続けると、何が起きるのか?

247例を平均401日投与した試験の結果が、アポキルの添付文書に載っています。3剤のうち、長期のデータが数字で公開されているのはこの1剤だけです。

ただし読む前に前提がひとつあります。この試験は、臨床試験に参加した犬のうち「本剤投与によるベネフィットがあったと判断された症例」に対し、動物愛護の観点から市販されるまで投与を継続した記録です。効果があった犬だけを選んで続けた集団であって、飲ませた犬全体の話ではありません。

参加した247例の平均年齢は6.8歳、投与期間の平均は401日(15〜672日)で、中央値は356日でした。この期間中、5%を超える犬で認められた事象は、尿路感染症・膀胱炎が11.3%、嘔吐が10.1%、耳炎が9.3%、膿皮症が9.3%、下痢が6.1%です。5項目のうち3つが、感染に関わる事象でした。

アポキルの添付文書は「本剤を長期的に投与する場合は、定期的に血液学的及び血液生化学的検査を実施することが望ましい」とも記載しています。長く続けるなら定期的な血液検査を、という指示が添付文書のレベルで出ているということです。

薬ごとに固有の注意点もあります。サイトポイントの抗体産生は先に触れたとおりです。アトピカの添付文書は、副作用として歯肉肥厚、耳介・肉球および皮膚のいぼ状病変、被毛状態の変化、血清ALT値の上昇、一過性の掻痒を挙げています。さらに「非常にまれな頻度で糖尿病がみられることがあり、主にウエストハイランドホワイトテリアで報告されている」という記述があり、膵臓のβ細胞からのインスリン分泌に影響を与える可能性があるため、糖尿病が疑われる犬には使用しないこととされています。

日本では、どんな副作用が報告されているのか?

公開されています。ただし読み方に注意が要ります。

農林水産省 動物医薬品検査所が運営する動物用医薬品等データベースでは、承認薬の製品ページに副作用情報の一覧があります。2026年8月時点で、犬について報告されている件数は次のとおりです。

製品犬の報告件数報告年の範囲
アポキル(錠3規格・チュアブル3規格)70件2016〜2025年
サイトポイント(10/20/30/40)23件2020〜2025年
アトピカカプセル(10/25/50/100mg)21件2006〜2022年

集計の対象にしたのは、アポキル錠3規格とアポキル チュアブル3規格、サイトポイント4規格、アトピカカプセル4規格の、それぞれの製品ページに載っている副作用情報です。

この数字を、そのまま薬の危険度として比べることはできません。

まず、投与された総頭数が公開されていません。分母がないため、発生率を計算できません。アポキルの件数が多いのは、販売開始が2016年でサイトポイントより3年早く、その分だけ投与された犬も報告の機会も多いからだと考えるのが自然です。

報告された内容が薬のせいだと確定しているわけでもありません。データベースには適応外使用による報告も含まれます。たとえばアポキル錠16には、人の症例が1件登録されています。50代の男性が自身のアトピー治療のためにアポキル錠16を2020年8月から2022年10月まで服用し、発咳・呼吸困難・ニューモシスチス肺炎を発症したという内容です。効能・効果の欄には「適応外使用」と記録されています。

なお、シクロスポリンには猫に承認された製剤(アトピカ内用液)も別に登録されており、そちらには猫の報告が13件あります。猫用製品に対する報告なので、上の表の犬用カプセルの件数には含めていません。

そして個別の症例を開くと、因果関係の判定そのものが「不明」で終わっているものが少なくありません。たとえばアポキル錠5.4で報告された2歳の秋田犬の症例では、2022年12月26日の投与から10分未満で頻回の嘔吐と大量の水様性下痢が起き、翌日に死亡しています。

この症例には、獣医師と製造業者の双方の意見が記録されています。獣医師は、投与前の血液検査に異常がなく基礎疾患もなかったこと、投与直後に嘔吐があったことから「因果関係は否定出来ない」としたうえで、飼い主の発見時にはすでに死後硬直が始まっていたため死因の詳細は分からないと述べています。製造業者は、嘔吐と下痢については「本剤投与が引き金となった可能性が高い」と認めつつ、死亡時に飼い主が不在で状況が把握されていないこと、投与前の約1年半にわたるステロイドと抗生剤の詳細が不明であることから、死亡との因果関係は不明としています。データベースの因果関係の欄は「不明」です。

転帰には回復した例も、重篤な結果に至った例も含まれています。ただし分母が公開されていない以上、件数の多寡や転帰の内訳だけを取り出して薬の安全性を判断することはできません。

それでもこのデータベースには、飼い主が見る価値があります。愛犬に処方された薬の名前で検索すれば、どんな症状がどんな犬に起きたと報告されているのかを、製薬会社の宣伝でも通販サイトの説明でもない形で読むことができます。

ステロイドは、もう古い薬なのか?

古くなってはいません。

新しい薬が出ると前の薬が不要になるという話ではないことは、アポキル自身の添付文書が示しています。アポキル錠の添付文書には、アレルギー性皮膚炎を対象に欧州で実施された臨床試験が載っており、その陽性対照はプレドニゾロン、つまりステロイドです。

結果はこうなっています。治療成功率はアポキル群68%(評価98頭)に対し、プレドニゾロン群76%(評価105頭)。数値の上ではステロイドのほうが高く出ています。ただしこの2つの数値に有意差の印はついておらず、統計学的な差が示されたわけではありません。

この治療成功率は、投与開始からDay7までの各評価日について、飼い主が評価した痒みのVASスコアが投与前より2cm以上下がった状態を成功として算出されています。14日間の投与を前提とした試験なので、長期の成績ではありません。

一方で、有害事象の出方には違いがあります。原典の表から主な項目を抜粋します。

有害事象アポキル群(105頭)プレドニゾロン群(114頭)
多飲、多尿、尿失禁、不適切な排尿5.7%42.1%
体重増加、食欲異常亢進7.6%16.7%
消化管障害15.2%14.9%
肝酵素値上昇該当なし3.5%

ステロイドを飲んでいる犬の42.1%に、多飲・多尿・尿失禁などが認められています。水をがぶ飲みするようになった、粗相が増えた、という変化は、飼い主にとって毎日目に入る負担です。アポキル群では5.7%でした。

(水を飲む量が急に増えた場合の目安については、犬の水分摂取量、1日どれくらい?でまとめています)

ICADA 2015のガイドラインも、経口グルココルチコイドを慢性期の有効な薬のひとつとして挙げています。寛解導入の用法は0.5mg/kgを1日1〜2回です。除外されている薬ではありません。

効き方の速さと確実さ、費用、そして副作用の出方。この3つのバランスで選ばれる薬であって、世代が新しいほど良いという並び方をしていません。

結局、どう考えればいいのか?

薬を1つ選ぶ問題として考えないほうがよさそうです。

ICADA 2015のガイドラインは、犬のアトピー性皮膚炎の治療についてこう述べています。

…the treatment of this disease is multifaceted, and that interventions should be combined for a proven (or likely) optimal benefit

(……この疾患の治療は多面的であり、確実な、あるいは見込みのある最適な効果を得るためには、複数の介入を組み合わせるべきである)

— ICADA「Treatment of canine atopic dermatitis: 2015 updated guidelines」より翻訳

そして急性の悪化と慢性期のどちらについても、ガイドラインが最初に置いているのは薬ではありません。急性増悪では「悪化の原因を探し、それを取り除くこと、低刺激のシャンプーで洗うこと、痒みと皮膚病変を、外用や経口のグルココルチコイドあるいはオクラシチニブを含む介入でコントロールすること」を挙げています。慢性期では「悪化因子の特定と回避、そして皮膚と被毛の衛生とケアが十分であることを確認すること」が第一段階です。どちらも薬は最後に置かれています。入浴については、低刺激のシャンプーで少なくとも週1回という記述があります。

必須脂肪酸のサプリメントにも触れていますが、表現は控えめで「some small benefit(いくらかの小さな効果)を提供するかもしれない」に留まっています。

これは3剤の添付文書とも方向が一致しています。アポキルとサイトポイントは、投与を始める前に細菌・真菌(皮膚糸状菌、マラセチアなど)・寄生虫(ノミ、ヒゼンダニなど)の感染を検査し、適切な治療を行うよう求めています。アトピカは書き方が違い、皮膚や全身の感染症がある場合、またノミアレルギー性皮膚炎を併発している場合は、それらが完治するまで投与しないこととしています。いずれにしても、痒みの原因が感染症であれば、痒み止めを足しても解決しません。

マラセチアが関わる痒みについては、犬が陰部を舐めて赤いのはなぜ?で、診断名がすぐに出ない理由とあわせて整理しています。痒みで足を舐め続ける行動については犬が風呂上がりの足を舐めるのはなぜ?も参考になります。

飼い主が持って行ける情報を残す

どの薬を選ぶかは獣医師の判断ですが、その判断材料の多くは家にあります。

診察室で犬が痒がって見せてくれることは、まずありません。獣医師が見ているのはCADESIに相当する皮膚の状態で、VASに相当する日々の痒がり方は、飼い主にしか観察できないからです。冒頭で触れた2つのものさしの片方は、家にしかありません。

記録しておくと診察で役に立つのは、次のようなことです。

いつから痒がりはじめたか。1日のうちどの時間帯に多いか。舐めたり掻いたりしている部位はどこか。前回の受診からシャンプーを何回したか。薬を飲ませはじめてから何日目に変化を感じたか。食欲や飲水量、排泄に変わったことはないか。

SiPPO Friends には服薬記録と通院記録の機能があります。投薬した日、次の注射の予定日、体重の推移をまとめておけば、診察のときに記憶をたどらずに済みます。健康管理の機能はすべて無料で使えます。

薬を減らせるかどうか、切り替えるべきかどうかを判断するのは獣医師ですが、その判断は飼い主が持ち込んだ情報の精度に左右されます。

まとめ

日本の添付文書と国際ガイドラインを読み比べて分かったことを整理します。

アポキルとサイトポイントは、痒みを止めている場所が違います。サイトポイントはIL-31そのものを中和し、アポキルはJAK1を介したシグナル伝達を止めます。

効きはじめは、添付文書の比較試験ではサイトポイントが速く、投与翌日から有意差がついていました。ただし84日目には、飼い主が評価する痒みのスコアでは有意差がなくなり、獣医師が評価する皮膚のスコアではシクロスポリンのほうが有意に良い結果でした。どちらが上かは、何を見るかで変わります。

副作用がほとんどないという説明は、添付文書の数字とは合いません。サイトポイント群でも15.5%が嘔吐しています。ただし嘔吐・下痢の頻度はシクロスポリン群のほうが明確に高く、出方が違うと読むのが正確です。

ステロイドは古い薬ではありません。治療成功率では数値上むしろ高く出ています。ただし多飲・多尿・尿失禁が42.1%に認められており、日常の負担という点で差があります。

そしてICADAのガイドラインが最初に置いているのは、薬ではありませんでした。悪化の原因を探して取り除くこと、皮膚と被毛の衛生を保つこと。3剤の添付文書も揃って、感染症があるなら先にそちらを手当てするよう求めています。

この記事は公開されている一次資料を読んだ記録であり、診断や処方の代わりになるものではありません。愛犬の痒みが続いている場合、薬の変更や中止を考えている場合は、かかりつけの獣医師に相談してください。副作用が疑われる症状が出た場合は、速やかに受診してください。

よくある質問

アポキルとサイトポイントはどちらが効きますか?
評価の仕方で答えが変わります。サイトポイントの添付文書に載っている比較試験では、飼い主が痒みを評価するスコアで、投与1日目から21日目までと56日目にサイトポイントが有意に上でした。一方、獣医師が皮膚の状態を評価するスコアでは、84日目にシクロスポリン製剤が有意に上回っています。どちらが優れているかを一言で決められる比較にはなっていません。
サイトポイントは副作用がほとんどないと聞きましたが本当ですか?
いいえ、ほとんどないとは言えません。添付文書の臨床試験では、サイトポイント群142頭のうち嘔吐が15.5%、下痢が13.4%、細菌性皮膚感染症が7.0%に認められています。ただし嘔吐と下痢については、比較対象のシクロスポリン群のほうが明確に高い頻度でした。
アポキルを長く飲ませ続けても大丈夫ですか?
総投与期間の上限は添付文書にありませんが、長く続けるなら定期的な血液検査が前提になります。用法及び用量は「1日2回、最長14日間。さらに継続する場合には1日1回」で、長期的に投与する場合は定期的な血液学的・血液生化学的検査を実施することが望ましいと記載されています。米国の長期投与試験では、平均401日投与した247例で尿路感染症・膀胱炎が11.3%、嘔吐が10.1%、耳炎と膿皮症が9.3%、下痢が6.1%に認められました。ただしこの試験の対象は、効果があったと判断されて投与を継続した犬に限られます。継続の可否は必ず獣医師と相談してください。
アトピー治療でステロイドはもう使わないのですか?
使われています。国際的な治療ガイドラインであるICADA 2015も、経口グルココルチコイドを慢性期に有効な薬のひとつとして挙げています。アポキルの欧州試験では治療成功率がアポキル68%に対しプレドニゾロン76%でしたが、この2つに有意差の印はついていません。一方で多飲・多尿・尿失禁はプレドニゾロン群42.1%、アポキル群5.7%と差がありました。
薬を飲ませる前に、飼い主ができることはありますか?
あります。ICADA 2015のガイドラインは、急性の悪化でも慢性期でも、まず悪化させている原因を特定して取り除くこと、そして皮膚と被毛の衛生を保つことを最初のステップに置いています。またアポキルとサイトポイントの添付文書は、投与開始前に細菌・真菌・寄生虫の感染を検査して治療するよう求めています。アトピカは、感染症やノミアレルギー性皮膚炎がある場合は完治するまで投与しないこととしています。

出典・参考文献

  1. 動物用医薬品等データベース アポキル錠3.6/5.4/16(オクラシチニブマレイン酸塩)添付文書 Z012(2026年6月改訂)農林水産省 動物医薬品検査所
  2. 動物用医薬品等データベース サイトポイント10/20/30/40(ロキベトマブ)添付文書 Z004(2023年2月改訂)農林水産省 動物医薬品検査所
  3. 動物用医薬品等データベース アトピカ25mgカプセル(シクロスポリン)添付文書(2026年3月改訂)農林水産省 動物医薬品検査所
  4. 動物用医薬品副作用報告 アポキル錠5.4(2歳・秋田犬の症例)農林水産省 動物医薬品検査所
  5. 動物用医薬品等データベース アポキル錠16 副作用情報農林水産省 動物医薬品検査所
  6. 動物用医薬品等データベース アポキル錠3.6 副作用情報農林水産省 動物医薬品検査所
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  9. 動物用医薬品等データベース アポキル チュアブル5.4 副作用情報農林水産省 動物医薬品検査所
  10. 動物用医薬品等データベース アポキル チュアブル16 副作用情報農林水産省 動物医薬品検査所
  11. 動物用医薬品等データベース サイトポイント10 副作用情報農林水産省 動物医薬品検査所
  12. 動物用医薬品等データベース サイトポイント30 副作用情報農林水産省 動物医薬品検査所
  13. 動物用医薬品等データベース サイトポイント40 副作用情報農林水産省 動物医薬品検査所
  14. 動物用医薬品等データベース アトピカ10mgカプセル 副作用情報農林水産省 動物医薬品検査所
  15. 動物用医薬品等データベース アトピカ50mgカプセル 副作用情報農林水産省 動物医薬品検査所
  16. 動物用医薬品等データベース アトピカ100mgカプセル 副作用情報農林水産省 動物医薬品検査所
  17. 動物用医薬品等データベース アトピカ内用液(猫用・シクロスポリン)農林水産省 動物医薬品検査所
  18. Treatment of canine atopic dermatitis: 2015 updated guidelines from the International Committee on Allergic Diseases of Animals (ICADA)BMC Veterinary Research(Olivry T, DeBoer DJ, Favrot C, Jackson HA, Mueller RS, Nuttall T, Prélaud P. 2015;11:210, doi:10.1186/s12917-015-0514-6)

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SiPPO Friends 編集部

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