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犬の食物アレルギーは検査で分かるのか|除去食試験に8週間かかる理由を原典で読んだ

24分で読める
フローリングに座り、目の前の皿に置かれた食べものから顔をそむけている茶色い巻き毛の小型犬。奥にステンレスのフードボウルが見える

犬が足の先をずっと舐めている。耳を掻く回数が増えた。動物病院に行く前にスマートフォンで調べると、毛や唾液を送るだけで分かるというアレルギー検査キットの広告が出てきます。

結論から書きます。犬の食物アレルギーを確かめる方法は、今のところ食事を入れ替える除去食試験と、元の食事に戻して再発を見る負荷試験しかありません。 郵送式の検査キットについては、偽の毛皮と水を送って結果を見た検証研究があり、本物の犬の検体と区別のつかない結果が返ってきました。

この記事では、除去食試験について繰り返し引用される「8週間」という数字がどこから来ているのか、加水分解タンパクのフードは何がどう違うのか、市販の「アレルギー対応」フードで代用できるのかを、一次研究の原文まで戻って整理します。あわせて、この分野の主要な研究に誰が資金を出しているのかも書きます。

ここに書くのは、公開されている論文と資料を読んだ記録です。診断や治療の代わりになるものではありません。愛犬のかゆみが続いている場合、食事を変えようと考えている場合は、必ずかかりつけの獣医師に相談してください。

犬のかゆみは、どれくらいが食べ物のせいなのか?

単一の数字では言えません。調べた集団によって大きく変わります。

犬と猫の皮膚型食物有害反応(皮膚に症状が出るタイプ)の有病割合をまとめた研究では、次のように報告されています(Olivry & Mueller 2017、BMC Veterinary Research)。

対象となった犬皮膚型食物有害反応の割合
理由を問わず動物病院を受診した犬1〜2%
皮膚疾患のある犬0〜24%
かゆみのある犬9〜40%
アレルギー性皮膚疾患のある犬8〜62%
アトピー性皮膚炎と診断された犬9〜50%

幅が広いのは、調べた病院や犬の集団が研究ごとに違うためです。「犬のかゆみの◯%は食物アレルギー」と一言で書ける数字は、少なくともこのレビューからは出てきません。

出方にも特徴があります。皮膚型食物有害反応のある犬825頭のデータでは、かゆみが出やすい部位は耳・足・お腹まわりでした(Olivry & Mueller 2019、BMC Veterinary Research)。会陰部はあまり侵されません。多くは全身性のかゆみとして現れ、再発性の細菌性皮膚感染と外耳炎という形をとることも多いと同じ研究は報告しています。発症年齢は1歳未満から13歳までばらつき、6か月齢までに発症した犬が22%、12か月齢までなら38%でした。

皮膚だけとも限りません。皮膚以外の症状を集めたレビューでは、犬で消化器症状・対称性ルポイド爪炎・結膜炎・くしゃみ・アナフィラキシーが食物有害反応と関連して報告されており、なかでも下痢と排便回数の増加が最も食事への反応が出やすい症状とされています(Mueller & Olivry 2018、BMC Veterinary Research)。

うちの茶々丸(キャバプー・9kg)は、陰部を舐めて赤くなったことがあります。そのとき原因としていちばん説明がついたのは皮膚のヒダにこもる湿気で、食べ物を疑ったことは一度もありませんでした。上の一覧を先に知っていたら、少なくとも選択肢のひとつには入っていたはずです。

アレルギー検査で、食物アレルギーは分かるのか?

郵送式の毛髪・唾液検査については、検証した研究があります。

米国の2人の獣医皮膚科医が行った研究では、アレルギーがあると分かっている犬1頭と、アレルギーのない正常な犬1頭から、毛と唾液の検体10件を提出しました。さらに、検査会社が本物の犬と作り物を区別できるかを見るために、フェイクファー5検体と水も送っています。会社側は128種類の食物・環境アレルゲンについて検査を行いました(Coyner & Schick 2019、Journal of Small Animal Practice)。

結果はこう報告されています。

The distribution of test results from samples obtained from allergic, non-allergic or fake dogs was not different from that expected due to random chance.

(アレルギーのある犬、ない犬、偽物の犬から得た検体の結果分布は、偶然から期待される分布と差がなかった)

同じ検体を再度提出したときの再現性も poor to slight、つまりほとんど一致しませんでした。著者らの結論は明快です。

Hair and saliva testing should not be used to diagnose allergies and is not a substitute for veterinary-directed allergy evaluation and diagnostics.

(毛髪・唾液検査はアレルギーの診断に使うべきではなく、獣医師の指示のもとで行うアレルギー評価・検査の代わりにはならない)

この研究の限界も書いておきます。検査した犬はアレルギーあり・なしが各1頭で、対象は1社の1製品です。すべての郵送検査について一般化できるほどの規模ではありません。

では動物病院で受けられる検査ならどうかというと、こちらも診断には届いていません。犬と猫の検査法を系統的にレビューした研究が、個別の食材による負荷試験を基準にして各検査の精度を計算しています(Mueller & Olivry 2017、BMC Veterinary Research)。次の表は飼育犬で自然に発症した例のものです。猫は別表になっていて、こちらは1本の研究(対象の猫は6頭以下)によるものですが、血清IgEの精度は20%、陽性的中率は0%と大きく違います。

検査精度陽性的中率陰性的中率
食物抗原による皮内試験63〜76%60〜67%62〜77%
血清中の食物特異的IgE58〜87%15〜100%61〜86%
血清中の食物特異的IgG77%35%84%
リンパ球増殖試験94%100%93%
食物抗原によるパッチテスト81〜90%63〜75%88〜99%

数字だけ見ればリンパ球増殖試験が際立っています。ただしこの行の根拠は1本の文献で、しかも同レビューは、この検査が技術的に難しく採血後すぐに検体を処理する必要があるため、商業検査ラボでは一般に提供されていないと書いています。精度が高いから受ければいい、という話にはなっていません。

日本の研究グループも、この検査を調べています。大阪の動物病院を中心とした研究チームは、食物アレルギーの犬13頭、アトピー性皮膚炎の犬7頭、健康な犬5頭でリンパ球増殖試験と血清IgE検査を比較しました(Fujimura ら 2011、Journal of Veterinary Medical Science)。リンパ球増殖試験は食物アレルギーの犬と健康な犬を区別するのには有用でしたが、アトピー性皮膚炎の犬との区別はできませんでした。13頭のうち6頭で、1.5〜5か月の除去食試験のあとに再検査したところ、リンパ球増殖試験の陽性反応はすべてほぼゼロまで下がりました。

パッチテストは、陰性的中率が88〜99%と高い一方で陽性的中率が低く、レビューは診断そのものには使えないとしています。ただし除去食に使う食材を選ぶ手がかりとしては役に立つかもしれない、という位置づけです。

レビューの結論を引きます。

At this time, the best diagnostic procedure to identify AFRs in small animals remains an elimination diet with subsequent provocation trials.

(現時点で、小動物の食物有害反応を特定する最良の診断手順は、除去食とそれに続く負荷試験である)

なお、この記事で扱っているのはあくまで食物アレルギーの診断です。環境アレルゲンに対するアレルギー検査は位置づけが異なりますし、アトピー性皮膚炎そのものの治療は別の話になります。薬の選択についてはアポキルとサイトポイントの添付文書を読み比べた記事で整理しました。

除去食試験は、なぜ8週間なのか?

「8週間」という数字の出どころは、2015年に発表された文献レビューです。犬209頭のデータを集計して、除去食を開始してから症状が寛解するまでの累積割合を出しています(Olivry ら 2015、BMC Veterinary Research)。

除去食の期間症状が改善・寛解した犬
3週約半数が著明に改善
5週85%超が正常化
8週95%超が正常化
13週ここまで要した犬は5%未満

この論文の抄録と結論部は、80%に届く時点を犬は5週・猫は6週と分けて書き、8週まで延ばせば犬猫とも90%超になるとしています。本文で犬だけを見ると、上の表のとおりもう少し高い数字になります。結論部は次のように書かれています。

For diagnosing CAFRs in more than 90 % of dogs and cats, elimination diet trials should last at least 8 weeks.

(犬猫の90%超で皮膚型食物有害反応を診断するには、除去食試験は少なくとも8週間続けるべきである)

国際的な治療ガイドラインであるICADA 2015も、8週間の除去・負荷試験で大半の犬の食物アレルギーを診断できるとしており、この推奨にSOR A(一貫した良質の患者志向エビデンスに基づく、という最上位の格付け)を与えています。

ここで、日本語のページで見かける数字にひとつ注意点があります。「4週間で50%、8週間で90%以上が改善する」という書き方です。この論文の中で「4週で50%」に当たるのは、犬ではなく猫40頭のデータでした(猫は4週で50%、6週で80%、8週で90%)。犬は3週の時点で約半数です。どちらも同じ論文の中にありますが、対象が違います。

期間の意味は、途中でやめたときに何が起きるかを考えると分かりやすくなります。5週で切り上げると、8週まで続ければ拾えたはずの約1割の犬が「食物アレルギーではなかった」と判定されます。その犬は原因が別にあると見なされ、次の検査や薬に進むことになります。

もっとも、同じ論文は、8週を待たずに症状が消えたなら、その時点で負荷試験に進んでよいとも書いています。結論部の言い方は「少なくとも8週間」です。これは診断の取りこぼしを減らすための目安であって、症状が消えた犬まで8週間待たせるという意味ではありません。

「グルテンフリー」なら安心なのか?

茶々丸のフードを選んだのは私で、選び方はネットのレビューでした。10種類ほど試して、いまのものに落ち着いています。原材料表示のタンパク源を確認する習慣はありません。ただ店頭でも通販でも「グルテンフリー」の表記をよく見かけるので、そちらのほうが本当は良いのだろうか、という疑問はずっとありました。

2025年に発表されたグレインフリー食の総説が、この点に答えています。

the presence or absence of grains in the diet does not mitigate the risk of allergies. A grain-free diet is only intended to help specific individuals (such as those who are sensitive to grains/gluten) avoid allergens.

(食事に穀物があるかないかは、アレルギーのリスクを軽減しない。グレインフリー食は、穀物やグルテンに感受性のある特定の個体がアレルゲンを避けるためのものにすぎない)

犬の食物アレルギーで報告が多い食材の順位を見ると、この記述の意味が分かります。犬297頭を集計した研究では次の順でした(Mueller ら 2016、BMC Veterinary Research)。

順位食材頭数(割合)
1牛肉102頭(34%)
2乳製品51頭(17%)
3鶏肉45頭(15%)
4小麦38頭(13%)
5大豆18頭(6%)
6ラム14頭(5%)
7とうもろこし13頭(4%)

上位3つは動物性のタンパク質です。小麦は4番目に入っていますが、穀物を抜けば残りの牛肉・乳製品・鶏肉が消えるわけではありません。なお原典は個体数の順位そのものより、牛肉・乳製品・鶏肉・小麦・ラムを「報告が多い群」、大豆やとうもろこし以下を「報告が少ない群」としてまとめており、負荷試験は牛肉と乳製品から始めるよう勧めています。

この研究にも著者自身が限界を書いています。報告されているのは負荷試験で症状が悪化した食材だけで、悪化しなかった食材は記録されないことが多いため、割合の推定にバイアスがかかる。そして次のように述べています。

the offending allergens found herein could merely reflect pet feeding habits in the preceding decades

(ここで見つかった原因アレルゲンは、単に過去数十年のペットの食習慣を反映しているだけかもしれない)

牛肉や鶏肉が上位に来るのは、多くの犬がそれを食べてきたからでもある、という話です。

例外もあります。犬でグルテンへの感受性がよく知られているのは、ボーダーテリアの発作性ジスキネジアと、アイリッシュセッターのグルテン過敏性腸症です。前者では血清中のグルテン関連抗体の上昇が報告され、グルテンフリー食で症状と抗体値がともに改善したとされています。同じ総説は、他の犬種でも発作性ジスキネジアの一部でグルテン感受性が陽性となり、グルテンフリー食で症状が大きく改善した報告があることにも触れています(Animals 2025)。皮膚以外の症状をまとめたCAT(6)も、ボーダーテリアの発作性グルテン過敏性ジスキネジアでは背景に食物有害反応を考慮すべきだと書いています。

そして同じ総説は、グレインフリー食について拡張型心筋症との潜在的な関連というリスク側の議論があることも挙げています。因果関係が確定したわけではありませんが、「穀物を抜けば安全側に倒れる」という単純な話でもありません。

もうひとつ、うちの例を書いておきます。以前、茶々丸に豆乳を少し与えたあとにお腹がゆるくなる気がしたので、それ以来あげないようにしています。ただ、これを「大豆アレルギー」と呼ぶことはできません。免疫が関わる食物アレルギーと、消化の問題である食物不耐性は別のもので、1頭の犬を数回観察しただけでは、そもそも豆乳が原因だったのかも決まらないからです。日常の運用として合わないものを避けるのは合理的ですが、それは診断とは別の作業です。

加水分解タンパクのフードは、何が違うのか?

加水分解食の考え方は単純で、タンパク質をあらかじめ細かく切っておきます。断片が十分に小さければ、肥満細胞の表面にあるIgEを橋渡しできず、アレルギー反応の引き金を引けない。この前提が実際に成り立つのかを、血清を使って調べた研究があります(Olivry ら 2017、BMC Veterinary Research)。

鶏特異的IgEが検出された犬30頭の血清で、抽出物ごとのIgE陽性率はこうなりました。

検査した抽出物IgE陽性だった犬の割合
鶏肉100%
鴨・七面鳥の肉97%
非加水分解のチキンミール73%
軽度加水分解した鶏の羽根37%
高度加水分解した鶏の羽根0%
牛肉(陰性対照)3%

同じ鶏の羽根を原料にしていても、分解の程度で37%と0%に分かれます。対照として調べた、鶏へのIgEが検出されない犬10頭の血清では、9頭がすべての抽出物で陰性でした。残る1頭だけ、軽度加水分解の羽根に対して判定の境目ぎりぎりの弱い反応が出ています。論文のタイトルがそのまま結論で、高度な加水分解は不可欠である、としています。

臨床でも同じ方向の結果が出ています。鶏肉で症状が出ることが負荷試験で確認された犬10頭に、加水分解した鶏の羽根由来の食事と、加水分解した鶏レバー由来の食事を、順番を入れ替えながら14日ずつ与えた無作為化二重盲検試験です(Bizikova & Olivry 2016、Veterinary Dermatology)。鶏レバー由来の食事では4頭(40%)がかゆみの再燃で試験を離脱し、羽根由来の食事では離脱がゼロでした。なお両群とも1頭ずつ、下痢が理由で離脱しています。

さらに古い系統的レビューは、次のように書いています(Olivry & Bizikova 2010、Veterinary Dermatology)。

up to 50% of dogs with CAFR enrolled in three controlled studies exhibited increases in clinical signs after ingesting partial hydrolysates derived from foods to which they were hypersensitive

(3つの対照試験に登録された皮膚型食物有害反応の犬の最大50%が、自分が過敏性を持つ食材由来の部分加水分解物を摂取したあとに症状の増悪を示した)

同レビューの結論はこうです。加水分解食のアレルゲン性は「減るが、なくならない」。現時点では、その成分に感作していないと考えられる犬に使うのが最善という位置づけで、価格や食いつき、消化器症状のリスクとの兼ね合いも判断材料に挙げられています。

「加水分解だから絶対に反応しない」ではなく、「どこまで分解されているかで結果が変わる」。フードのパッケージからその程度を読み取るのは難しいので、選択は獣医師と相談するのが確実です。

市販の「アレルギー対応」フードで試験できるのか?

除去食試験は、食べたことのないタンパク質か、十分に分解されたタンパク質だけを食べさせることで成立します。ということは、パッケージの表示が正しいかどうかに結果がかかっています。

これを17本の論文と1本の抄録から集計したレビューがあります(Olivry & Mueller 2018、BMC Veterinary Research)。

  • 検査されたペットフード全体では、表示にない原材料が検出された割合は研究によって0〜83%、中央値45%
  • 「新奇原材料」「限定原材料」をうたい、除去食への使用を想定した製品を調べた研究に限ると、その範囲は33〜83%
  • 逆に、表示にある原材料が検出されなかったケースは0〜38%(中央値1%)で、こちらは無視できる規模

ここで注目したいのは、加水分解タンパクを含むフードの扱いです。同レビューによれば、加水分解フードでは1例を除いて予想外の動物種のタンパク源が検出されませんでした。その1例についても著者らは、交差汚染の可能性に加えて、質量分析の照合に使ったデータベースに未知のジャガイモ由来タンパクが登録されていなかった可能性を議論しています。

つまり、加水分解食には「アレルゲン性が完全には消えない」という弱点がある一方で、「中身が表示どおりである確度は高い」という強みがあります。この2つは別々の論文が報告した所見で、相反して見えますが、どちらも確認できる事実です。

著者らは、実際の誤表示率はここで報告した値よりも高い可能性が高いとも書いています。検査法が調べられる原材料の種類に限りがあるためです。

もうひとつ、同じレビューは重要な留保を置いています。表示外の成分が入っていたからといって、その成分にアレルギーのある個体が実際に症状を出すかどうかは分かっていない、というものです。誤表示のあったフードを使って、その成分にアレルギーのある犬や猫で負荷試験を行った研究がないためです。加水分解フードについての評価も、6本の研究が調べた範囲での話で、検体数は多くありません。ICADAのガイドラインも、ペットショップなどで入手できる非処方食(限定原材料をうたうものを含む)に表示外の成分が頻繁に混入することを3つの研究が示した、と記しています。

私はフードをレビューで選んできたので、原材料表示は「読むもの」ではありませんでした。除去食試験の資料を読んで分かったのは、仮にこの先、茶々丸でそれをやることになったとき、まず必要なのはこれまで何を食べてきたかの棚卸しだということです。食べたことのないタンパク質を選ぶには、食べたことのあるタンパク質を全部思い出さないといけません。10種類のフードを試したという事実は、その作業を10倍面倒にしています。

8週間、おやつを全部やめられるのか?

ここが本題かもしれません。

Merck Veterinary Manualは、除去食試験で避けるべきものを具体的に列挙しています。

In an elimination diet trial, all food-based items must be avoided, including rawhide chews, pill pockets, table food, flavored vitamin and mineral supplements, oral arthritis supplements, and flavored toys.

(除去食試験では、食品由来のものはすべて避けなければならない。牛皮のガム、投薬用のピルポケット、テーブルフード、フレーバー付きのビタミン・ミネラルサプリ、経口の関節サプリ、そしてフレーバー付きのおもちゃを含む)

おやつだけの話ではありません。薬を飲ませるために使うピルポケットも、おもちゃに付いた風味も含まれます。

茶々丸が一日に口にするものを数えると、フードのほかにおやつと歯磨きガム、それにたまに人の食べ物のおすそ分けがあります。さつまいもや果物で、与える前に犬に大丈夫かは調べています。これを8週間まるごと止められるかと聞かれたら、正直なところ厳しいと答えました。欲しがるからです。

ただ、一度だけ2か月やめたことがあります。動物病院で「ちょっと太り過ぎ」と言われたときです。理由が体重なら止められて、理由がかゆみなら止められないというのは、犬の側の事情ではありません。

8週間という数字が持つ本当の難しさは、研究の側ではなく家庭の側にあります。5週で85%、8週で95%という数字は、その期間フードだけを食べ続けた犬の話です。途中でガムを1本あげた時点で、その8週間が何を測っていたのかが分からなくなります。獣医師と相談して、続けられる形を先に設計しておくほうが、結果的に近道になります。

良くなったら、そこで終わりなのか?

除去食で症状が消えても、それだけでは診断は完成しません。ちょうど季節が変わっただけかもしれませんし、同時に始めたノミ対策が効いただけかもしれないからです。元の食事に戻して症状が再発することを確かめる負荷試験まで行って、はじめて食物アレルギーだと言えます。

では戻したあと、何日待てばいいのか。犬234頭・315回の負荷試験を集計した研究が答えを出しています(Olivry & Mueller 2020、BMC Veterinary Research)。

  • 負荷の翌日に再燃した犬は9%、2日目までで21%
  • 50%が再燃するまでに5日
  • 90%が再燃するまでに14日

Merck Veterinary Manualも、反応は数日(ときに数時間)で出ることが多いものの10〜14日かかる場合があるとして、個々の食材を試すときは2週間以上の間隔をあけるのが一般的だとしています。

この14日という数字には、もうひとつ意味があります。研究チームは、初日の再燃がこれほど少ないことから、犬と猫の食物アレルギーはIgEを介した反応よりも細胞が介在する反応であることが多いのではないかと考察し、それが血清IgE検査の精度の低さの一因かもしれないと述べています。あくまで仮説として書かれているものですが、検査が当てにならない理由と、負荷試験に2週間かかる理由が、同じところでつながっている可能性はあります。

なお、どの食材から戻すかについては、原因報告の多い牛肉と乳製品から始めるべきだというのがCAT(2)の結論です。

この記事が引いた研究には、誰がお金を出しているのか?

ここまで繰り返し引用してきたCATシリーズについて、書いておかなければならないことがあります。

除去食試験の期間を決めた2015年の論文には、著者3名が過去3年間にロイヤルカナン社のために講演を行い、研究資金またはコンサルティング報酬を受け取っていること、同社が掲載料を負担したことが明記されています。さらに謝辞には、このCATシリーズ自体が同社の発案と支援によるものだと書かれています。検査法をレビューした2017年の論文も同社の資金によるもので、こちらには「同社はこのCATの内容に影響を与えていない」という一文が添えられています。加水分解の程度を調べた2017年の論文は、著者にロイヤルカナン社と検査会社Avacta Animal Healthの所属者を含みます。

加水分解食や療法食を販売している会社が、加水分解食の必要性と除去食試験の手順を示す研究群の資金源になっている。これは知らずに読むべきことではありません。

一方で、資金源だけを理由に内容を切り捨てるのも乱暴です。論文には資金源が明記され、方法も数字も公開されています。

そのうえで見ておきたいのは、結論の向きです。検査では診断できないという結論は、除去食試験が要るという方向、つまり療法食の必要性と同じほうを向いています。加水分解フードの表示は正確だという所見も同じ向きです。逆に、市販フードの誤表示率を公表したことは、ペットフード業界の側には不利な内容でした。同じシリーズの中に、両方の向きの結論が並んでいます。

私にできるのは、数字を数字として紹介したうえで、その出どころも一緒に書くことです。グレインフリー食の総説(Animals 2025)のように、著者が利益相反なしと宣言している資料もあります。読み比べる材料として、どちらも並べておきます。

記録が、次の8週間を短くする

獣医師に「いつからですか」「何か変わったものを食べましたか」と聞かれて、答えに詰まったことがあります。自分の昨日の晩ごはんも思い出せないので、茶々丸の食事の記録が頭の中にあるはずもありません。

除去食試験は、この記憶に全部かかっています。食べたことのないタンパク質を選ぶには過去の食事歴が要りますし、8週間の途中で何を食べさせたかが曖昧だと、結果の解釈ができません。負荷試験に進めば、どの食材をいつ戻して、何日目に何が起きたかを追う必要があります。

記録しておくと診察で役に立つのは、次のようなことです。

いまのフードの商品名と、主なタンパク源。切り替えた日付。おやつと歯磨きガムの種類。人の食べ物をあげた日と、その内容。かゆがりはじめた時期と、体のどこを気にしているか。便のゆるさや回数の変化。

SiPPO Friends には食事記録と便記録の機能があります。フード名と開始日、便の状態を残しておけば、診察のときに記憶をたどらずに済みます。健康管理の機能はすべて無料で使えます。

消化器症状の見方についてはうんちの色と形から健康サインを読む記事で詳しく書きました。なお、中毒を起こす食べ物と、アレルギーの原因になる食べ物は別の話です。前者については犬に与えてはいけない食べ物の記事を参照してください。

まとめ

一次資料を読んで分かったことを整理します。

犬のかゆみのうちどれくらいが食べ物由来かは、集団によって9〜40%と幅があり、ひとつの数字では言えません。

郵送式の毛髪・唾液検査は、アレルギーのある犬・ない犬・フェイクファーの結果が偶然と区別できませんでした。動物病院で受けられる血清IgE検査も、犬では精度58〜87%と大きくばらついています。診断法として残っているのは除去食試験と負荷試験です。

8週間という期間の根拠は、犬209頭のデータで5週に85%超、8週に95%超が寛解したという集計です。日本語のページでは「4週で50%」という数字も見かけますが、この論文で4週50%に当たるのは猫のデータでした。

グルテンフリーやグレインフリーは、一般的なアレルギー対策にはなりません。報告の多い原因食材の上位3つは牛肉・乳製品・鶏肉で、いずれも穀物ではないからです。

加水分解食は、分解の程度で結果が変わります。軽度の加水分解では37%の犬の血清IgEが反応し、高度な加水分解では0%でした。一方で加水分解フードは、限られた本数の検査ではあるものの、表示どおりの中身である確度が高いという別の長所を持っています。

そして、除去食試験の最大の難所はおそらく科学ではありません。牛皮のガムもピルポケットもフレーバー付きのおもちゃも、8週間すべて止める必要があります。

除去食試験を始めるかどうか、どの食材から試すかは、必ずかかりつけの獣医師と相談して決めてください。皮膚の症状に加えて嘔吐や下痢が続いている場合は、早めに受診してください。

よくある質問

犬のアレルギー検査キット(毛や唾液を送るタイプ)は信頼できますか?
食物アレルギーの診断には使えません。2019年の検証研究では、アレルギーのある犬・ない犬・フェイクファーと水から得た検体の結果分布が、偶然から期待される分布と差がありませんでした。同じ検体を再提出したときの再現性も低いものでした(Coyner & Schick、Journal of Small Animal Practice)。診断は獣医師の指導のもとで行う除去食試験が基本になります。
犬の除去食試験は何週間続ければいいですか?
少なくとも8週間が目安とされています。犬209頭のデータをまとめた研究では、5週で85%超、8週で95%超が症状の寛解に至りました(Olivry ら 2015、BMC Veterinary Research)。国際的な治療ガイドラインICADA 2015も、8週間の除去・負荷試験で大半の犬の食物アレルギーを診断できるとしています。期間や進め方は必ず獣医師と相談して決めてください。
犬の食物アレルギーで多い原因食材は何ですか?
297頭の集計では牛肉102頭(34%)、乳製品51頭(17%)、鶏肉45頭(15%)、小麦38頭(13%)の順でした(Mueller ら 2016、BMC Veterinary Research)。上位は珍しい食材ではなく、よく食べられているタンパク質です。ただし著者自身が、この順位は過去数十年のペットの食習慣を反映しているだけかもしれないと注意しています。
グルテンフリーやグレインフリーのフードは、犬のアレルギー対策になりますか?
一般的なアレルギー対策にはなりません。2025年の総説は、食事に穀物が入っているかどうかはアレルギーのリスクを下げるものではなく、グレインフリー食は穀物やグルテンに感受性のある特定の個体がアレルゲンを避けるためのものだと述べています(Animals 2025)。犬でグルテン感受性がよく知られているのは、ボーダーテリアの発作性ジスキネジアとアイリッシュセッターのグルテン過敏性腸症です。
除去食試験の8週間、おやつは全部やめる必要がありますか?
必要です。Merck Veterinary Manualは、除去食試験中に避けるべきものとして、牛皮のガム、投薬用のピルポケット、テーブルフード、フレーバー付きのビタミン・ミネラルサプリ、経口の関節サプリ、そしてフレーバー付きのおもちゃまで挙げています。続けられる形を獣医師と一緒に設計することが、結果的に近道になります。

出典・参考文献

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  12. A systematic review of the evidence of reduced allergenicity and clinical benefit of food hydrolysates in dogs with cutaneous adverse food reactionsVeterinary Dermatology(Olivry T, Bizikova P. 2010;21(1):32-41, doi:10.1111/j.1365-3164.2009.00761.x)
  13. Treatment of canine atopic dermatitis: 2015 updated guidelines from the International Committee on Allergic Diseases of Animals (ICADA)BMC Veterinary Research(Olivry T, DeBoer DJ, Favrot C, Jackson HA, Mueller RS, Nuttall T, Prélaud P. 2015;11:210, doi:10.1186/s12917-015-0514-6)
  14. Flow cytometric analysis of lymphocyte proliferative responses to food allergens in dogs with food allergyJournal of Veterinary Medical Science(Fujimura M, Masuda K, Hayashiya M, Okayama T. 2011;73(10):1309-1317)
  15. Grain-Free Diets for Dogs and Cats: An Updated Review Focusing on Nutritional Effects and Health ConsiderationsAnimals(2025;15(14):2020, doi:10.3390/ani15142020)
  16. Cutaneous Food Allergy in Animals(最終更新 2025年8月)Merck Veterinary Manual

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SiPPO Friends 編集部

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